第12章 鬼と豆まき《壱》✔
大体なんであんなにも自然と触れることができるんだろう。
指先やさっきの髪房もそう。
杏寿郎とそういう関係になって気付いたけど、さり気ない仕草や言葉で毎回私の心臓を揺さぶってくる。
天元みたいな女慣れしてる感じはしなかったのに…。
そういえばお母さんが生きていた頃は、ご両親は仲睦まじい夫婦だったって言ってたっけ。
そういう姿を見て育ったのかな。
なんにせよ心臓に悪い。
「…支度しよ」
でもそれを嫌だと思っていない自分がいることも、わかっているからどうしようもなく。
熱い溜息を一つついて腰を上げた。
杏寿郎の思い掛けない寝顔を見られた訳だし。
…そういえば、まさか私の隣で寝落ちるなんて。
柱としても人としてもしっかりした杏寿郎だから、改めて考えれば驚きだ。
それだけ、私に気を許してくれてるってことなのかなぁ…。
「だと、嬉しいけど」
「うむ! いつもの蛍だな!」
身支度を整えて髪も結って部屋を出れば、すぐに屋敷の主と出くわした。
「おはよう!」
「おはよう」
二度目の挨拶は、いつもの元気なもの。
やっぱり通常時の杏寿郎のこの笑顔、好きだなぁ。
「仮眠時間が取れたってことは、今日のお仕事そんなに大変じゃなかったの?」
「ああ。今日すべきことは今日のうちに終えられた」
というか、本日中に終えられないくらい毎日業務があることが問題なんだけど…柱って皆そんなに大変なのかな?
天元とかそんなふうに感じないけど。
前に屋敷にお邪魔した時は奥さん達と楽しそうに過ごしてたし…あ、もしかして奥さん達が手伝ったりしてるのかな。
「そのお仕事、私に手伝えるものはある?」
「蛍にか?」
「うん。杏寿郎、いつも忙しそうにしてるし…私も何か力になればいいなって。継子として」