第11章 鬼さん、こちら。✔
「ならばさつまいもの味噌汁に、」
「うん」
そこは外せないよね。
「以前作ってくれた、筍ご飯もまた食べたい」
「いいよ」
今の季節は美味しいもんね。
気に入ってくれたんだ、よかった。
「それと白身魚の塩焼きも頼めるだろうか…?」
「任せて」
杏寿郎は魚料理も好き、と…ふむふむ。
前は鯖を使ったけど、今回はどうしようかな。
全部頷けば、眉が再び凛々しく上がってぱぁっと笑顔が宿る。
「では帰ろう!」
いつもの張りある声で、すっくと立ち上がる杏寿郎の頭はきっと今日の晩御飯で埋まってる。
そんな杏寿郎の姿を見てると、可愛いなぁとついつい顔が綻ぶ。
見た目に時透くんや伊之助みたいな可愛さはないのにね。
あの二人よりずっと可愛いと思ってしまう。
なんでだろ…惚れた弱み、とか?
「蛍」
名を呼ばれて手を差し出される。
その手を握って同じに立てば、掌の体温は繋がったまま。
さっきまではその繋がりにどぎまぎしていたのに、今はその当たり前にある繋がりが胸を満たす。
慕う人に慕われる。
そんな経験、家族以外したことないからよくわからないけど…幸せ、って言うのかな。これ。
「そうだ。今日は無理だけど、今度さつまいもでお菓子作るよ。蜜璃ちゃんに教えて貰ったんだ」
「さつまいもで? よもやそれは真か」
「うん。作り方は習いに行かないとだけど」
なんて名前のお菓子だったっけ…すいーと…いや、すいーた?…ぽて…ぽつ…ぽっと?
「すいーた、ぽっと、とか言う…」
「なんとも摩訶不思議な名だな」
「う、うん…多分」
大きな街に行けばハイカラなお菓子もあちこち売ってあるんだろうけど、私はそういうものに余り触れてこなかったから。
ぱんけぇき、とか。あいすくりぃむ、とか。
蜜璃ちゃんに教えて貰った洋菓子は、なんともヘンテコな名前が多いから覚え難い。
多分、それだ。
すいーたぽっと。