第11章 鬼さん、こちら。✔
ぐぅうう〜
そんな淡い空気を突如吹き飛ばしたのは、なんとも間抜けな腹の虫。
あ。
「そういえば夜遅くなったね」
杏寿郎の晩御飯の時間はとっくに過ぎてる。
そうだと思い出して顔を離せば、杏寿郎も頷…いていなかった。
「杏寿郎?」
「っ」
思いっきり顔を逸して明後日の方角を見てる。
それじゃ顔が見えないんだけど。
「どうしたの」
「……」
「杏寿郎ってば」
「……」
「お腹空いたんじゃ」
「そうだな!!」
うわ吃驚したっ
いきなり至近距離で大声は半端ないから!
そんな反論でもしようかと思ったけど、そんな勢いはすぐに萎んでしまった。
「…全く、」
自分で自分を詰るように、呟く微かな声。
こちらを向いた顔半分は、片手で覆った杏寿郎自身の手で見えない。
でもなんとなくわかった。
だって髪から覗く耳は、真っ赤だったから。
…もしかして恥ずかしいって思ったのかな。
「ごめんね。私が気付けなかったから」
鬼の私に晩御飯という概念はない。
今も飢餓は出てないから、本当に抜けてた。
料理当番なのに。
慌てて伝えれば、ようやく顔を覆っていた手が退く。
「いや、蛍に非はない。肝心なところで空腹の一つも抑えられない俺が不甲斐ないだけだ…」
あ、やっぱり恥ずかしかったんだ。
というか落ち込んでる。
凛々しい眉は下がって、いつもぴんと立ってる癖の強い前髪も心無しかへなりと下がっているような…何その感情表現。面白い。
「そんなことないよ。お腹が空くのは人として当然のことだし。お誕生日のお祝いもしなきゃね。杏寿郎の好きなもの沢山作るから、帰ろう」
そうだ、杏寿郎の誕生日。
お祝いしないと。
「本当か?」
「うん」
そう誘えば、ぴんっと前髪が今度は元気に…だから何それ本当面白いな。