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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第11章 鬼さん、こちら。✔



「っ…私、は」


 握り返す。
 離れないように。
 放さないように。

 絞り出すように、口を開いた。


「鬼、だよ」


 だけどようやく形になった言葉は、情けないものだった。

 アオイは、それでも私は私だと言ってくれた。
 その言葉は凄く嬉しかった。
 私も私自身、そうだと思ってる。

 それでも無視はできない問題だ。

 だって。私は。


「人の…血を飲まないと、平常でいられないし…太陽の下を一緒に歩くこともできない。杏寿郎が美味しいと思ったものを、感じることも、できない」


 何気ないことだけど、だからこそその何気ないことを分かち合えないことが、私の足場に影を作る。
 自ら影を大きくするように、気付けば俯いていた。

 人が普通に感じられることを、私は感じることができない。
 そんな私が杏寿郎の隣にいていいのか。


「全て重々理解しているつもりだ。鬼がどういう生き物か、俺は君より知っている」


 杏寿郎の声に動揺は見られなかった。
 その言葉通り、誰よりも理解した上で伝えてくれたんだろう。
 鬼である私より、柱である杏寿郎の方が鬼の本性を目の当たりにしてきたはずだから。


「それでも尚、俺は蛍が欲しいと言ったんだ。その言葉が信じられないか?」

「…ううん」


 信じられない訳じゃないよ。
 そんな感情は一欠片もない。


「もっと自分自身を認めろ、蛍。君は人の命を救った鬼だ。皆もそんな君を認めたからこそ、此処にいる」


 わかってる。
 わかってるんだよ。
 それは事実だって。

 だけど、もう一つ変わらない事実がある。


「君は他の鬼とは違う」

「違うところも、あるけど…同じところも、あるよ」


 だって。


「私は…」


 声が震えそうになる。

 杏寿郎は、私が鬼となり人を殺したことは知っている。
 それでも尚、私を私として見てくれた。
 それが嬉しかった。

 だからこそ、このまま黙っていていいものなのかと疑問を持つ。
 わざわざ伝えるべきことじゃないかもしれない。
 でも黙秘することは、ある意味嘘をついていることと同じだ。

 真っ直ぐに私を見てくれた杏寿郎だから、私も真っ直ぐに向いていたい。


「私は、人を喰った、鬼だから」










 それも、覆せない事実。

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