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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第11章 鬼さん、こちら。✔



 杏寿郎からの返答はない。
 思い切って伝えたから、何か反応はあるかと思ってたけど…驚くくらいに何もない。

 …えっと。

 見ないようにしていた顔を恐る恐る伺えば、じっと両目はこちらを見ていた。
 それこそ穴が空きそうなくらいに、じぃいっと…えっと。

 私、変なこと言ったかな…?
 言ってない、よね?
 杏寿郎も同じこと伝えにきてたし。
 私が言えば可笑しな空気になるとか…ない、よね?

 あ、でも杏寿郎が伝えにきてくれた時も可笑しな空気になったっけ…いやなったっけ?
 あの時は私が言葉の意味を深読みし過ぎて、困惑してたというか。
 杏寿郎はあっさり話題を切り上げてたし、変な空気になっていたのは私の周りだけだった。
 だから今回も杏寿郎はあっさり言葉を呑み込むと思ってた、のに……何その沈黙。
 なんで黙り込んでるのこっちが焦るから。
 何か反応し


「蛍」

「ふぁいッ!?」


 げっ
 いきなり声をかけられたから、悩んでた分変な声出た!


「ご、ごほッ! ちょっと咽(むせ)て」

「出過ぎたことを、したと思っていたんだが」

「え?」


 わざとらし過ぎたかな。
 口元に拳を当てて咳していれば、手首を摑まれた。

 …待って。
 出過ぎたことって?


「鬼殺隊の中で前に進もうとしている蛍を、俺の余計な想いで混乱させたくなかった」


 余計な…何?
 なんて言ったの今。


「だから後悔した。余計なことを言ってしまったと」


 咳き込んでいた顔を拳から上げる。
 こっちを見てくる杏寿郎の顔は──…あの時と、同じだ。
 あの、お館様の屋敷の中庭で見かけた、顔と。


「余計なこと、なんて…」

「ああ」


 出過ぎたことなんて、余計なことなんて、していない。
 その思いは告げる前に遮られた。


「今、それを知った。だからもう止めない」


 止める?
 何を。


「先程の答えは撤回する」

「へ?」


 手首を掴まれていた手が握られる。

 答えって?
 そう問いかける前に、頭にそれはふわりと落ちてきた。
 鼻を掠めるほのかな優しい香り。

 あ…これ。
 さっき杏寿郎が作っていた、ちょっと歪な花輪。
 白と紫の混じり合う冠が、私の頭に乗せられていた。

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