第11章 鬼さん、こちら。✔
「でも、ね」
なのに気付けば口走っていた。
「人間全部とは言えないけど…信じてみたい人を、此処で見つけられた」
例え私が鬼で、相手が鬼殺隊でも。
その枠組みを取っ払って、見てくれる人もいることを知ったから。
「それを教えてくれたのは杏寿郎だから」
他ならぬ杏寿郎も、今はその一人。
「俺が?」
「うん。義勇さんや蜜璃ちゃんみたいに、最初から私を私として見てくれた人もいる。でもそれは義勇さん達だからできたことだと思う」
お館様も言っていた。
義勇さんは本当は誰よりも優しいひとだと。
それは蜜璃ちゃんも同じだ。
言葉にすれば簡単だけど、その優しさを実践するとなると難しい。
他人が容易に持ち得ない優しさを、根本で抱えた人達だ。
炭治郎も、きっとその一人。
「でも杏寿郎は、最初は私を滅する鬼として見てた」
杏寿郎の唇が、ぴたりと動きを止める。
「その為に柱になったんだから、その信念は当然のものだよね。…でも杏寿郎はその信念を持つ中で、私の声を聞いてくれた」
杏寿郎は意志がとても強い人だ。
それは簡単に他人の言葉では揺るがない。
例えお館様の声でも。
だから自分の足で私の下へ来て、自分の眼で私を見ようとしたんだろう。
必要がないと思えば、お館様の提案自体を反対していたはず。
「言ったよね、杏寿郎。初めて藤の檻の中で、私の腕の手当てをしてくれた時」
『鬼は殺して然るべき。そうして今まで生きてきた。その鬼である君を生かすとあらば、今までの俺を否定しなければならない。…それでも今日、己がしたことは恥ずべきことではないと思っている』
「あれ、凄い言葉だなって思った」
今まで築き上げてきた自分自身を否定するような行為、普通ならできない。
そしてそれは他人に諭されたものではなく、杏寿郎自身が見出した行動だ。
「義勇さん達は自分の本質に従っていたけれど、杏寿郎はその本質を曲げてまで私を見てくれた。自分自身が培ってきたものじゃなく、私という鬼を見て信じてくれた。…それがどんなに凄いことか、わかる?」
それは私の目の前を覆っていた暗闇を、取り払うような景色だった。
人は変われる。
自分の意思で変わることができる。
それを証明して見せてくれたから。