第11章 鬼さん、こちら。✔
「あ、それなら」
ぷちぷちと新しく摘む白詰草の中に、いくつか菖蒲も混ぜ合わせる。
ほんの少しまだ開いている花もあったから、折角だし。
杏寿郎の誕生花。
「まず一本、花の軸になる白詰草を選んで。それからその茎にこうやって一つ一つ、別の花を巻いていって…」
「む。こうか?」
「こっち回りで…そうそう」
杏寿郎の手元を隣から覗き込みながら、丁寧に花輪の作り方を変えていく。
大きな手の中で一つ一つ結び輪を作り上げていく、小さな白と紫の花。
だけど花の位置が不自然に離れていたり茎の締まりが弱かったり、私の作った冠に比べれば随分と歪な……やったことないの本当なんだ。
「蛍のようにはいかないな…難しいものだ」
「ん、ふふっ」
「?」
「あ、ごめん」
あんまり真剣な顔で不器用に作るから。
なんだか見た目との違いというか…可愛いなって。
つい笑ってしまった。
「私でも杏寿郎に教えられることがあったんだなって。嬉しくなって」
いっつも教えて貰う側だったから。
「そんなことはないぞ。俺の持っていた鬼の概念が、この世の道理ではなかったと教えてくれたのは蛍だ」
「概念?」
「鬼は滅するだけの存在ではない。あの猫子少女もそうだが…」
猫子少女?
って誰だ。
「…禰豆子?」
もしかして禰豆子のこと?
禰豆子のことを言ってるのかな?
前々から思ってたけど、杏寿郎ってほぼ面識のない人の名前はよく間違えるよね。
そして脱線具合が特殊過ぎる。
「鬼にも別の在り方や道があると、新たな可能性を蛍は見出させてくれた」
あ、禰豆子の名前流された。
敢えて猫子で通すんだね。
「感謝している」
「そう、かな…まぁ私はその滅するべき鬼のことを、よく知らないんだけどね」
「知りたいか?」
「うん」
義勇さんには駄目だって言われたけど、今でも知りたい気持ちは変わってない。
即答すれば、花輪を作っていた手を止めてじっと杏寿郎の目が私を見てくる。
この目は知ってる。
私を見定めている時の目だ。