第11章 鬼さん、こちら。✔
「こんなにも嬉しいものだったんだな。久しく忘れていた」
「そ…そう? ただの花輪だけど…」
「蛍が俺の為に作ってくれたものだ。だから嬉しい」
あ。今、なんかどきりとした。
どきりというか…胸の奥がきゅっとする感じ。
「そっか…なら、私も嬉しい」
すとんと座り込めば、目線の位置が杏寿郎と重なる。
さっきより縮まる距離。
見慣れない杏寿郎の照れた笑顔に、なんだかこっちまでどきどきした。
「でもそれはとりあえずこの場凌ぎみたいなものだから。して欲しいこととか、欲しいものがあったら言って。私にできることならするよ」
もう日付は過ぎてしまっているけど、杏寿郎の為に何かしたい。
そんな私の姿勢に、杏寿郎は頸を横に振った。
「これで十分だ。君から、生まれたことに感謝の意を貰えた。これ以上欲を張ってはいけないな」
「でも…」
「では帰ったら、さつまいもの味噌汁を作ってくれないか?」
「それは、いいけど」
でもそれ、本来作る予定のものだったし。
あんまり特別感ないなぁ…。
でも杏寿郎は本当にそれで満足らしく、遠慮や気遣いは見られない。
貰った花輪を嬉しそうに見てるし。
それなら、いいけど。
「しかし蛍は手先が器用だな。こんな繊細なものを手早く作り上げてしまうなんて」
「そんなことないよ。女の子なら誰でも知ってる簡単な花輪作りだから」
小さい頃、姉さんに教えて貰った遊びの一つ。
女の子らしい小物なんて持っていなかったから、よく近くに咲いている花々で冠や腕輪を作っては着飾って遊んでいた。
「杏寿郎は知らない?」
「ううむ…幼少期は鍛錬ばかりしていたからな…」
あ、凄くそれっぽい。
歴史ある柱の家系だし、お父さんも炎柱で、ましてや長男に生まれたらね…。
「一度もしたことないの?」
「うむ」
手に持った花輪を杏寿郎があんまり興味深く見ているものだから、遊び心が生まれる。
「じゃあ教えてあげる」
「いいのか?」
「勿論」
幸い、此処は十分過ぎる程の白詰草で溢れているし。
何個作っても白詰草の草原はなくならないだろう。