第11章 鬼さん、こちら。✔
皐月って五月?
…今、五月だけど?
「その、何日なの? 誕生日って…」
恐る恐る問い掛ければ、杏寿郎は穏やかな夜と同じ穏やかな笑みを称えて。
「五月十日だ」
過去日を言って下さった。
「十日!? もう一週間以上前のことじゃ…っなんで言ってくれなかったの!?」
「むっ? そ、そんなに驚くことか?」
驚くよ!
その日も一日炎柱邸にいたけど、杏寿郎普通だったよね!?
誕生日の"た"の字も聞いてないよ!?
「あの日は蛍も俺の屋敷に来て日が浅かっただろう。日々の暮らしを覚えるのに大変だっただろうし、そもそも誕生日を今更祝って貰う歳でもない。それに心配せずとも千寿郎や甘露寺達から手紙なら──」
あっ
そういえばが要(かなめ)が杏寿郎に手紙届けてた…!
要は杏寿郎の鎹烏。
大声で爽快に話す杏寿郎とは真逆に、物静かな鴉だ。
だけど任務や鎹鴉としての使命には真っ直ぐな姿勢を持つ、そこは杏寿郎ととても似ている鴉。
あの日はあちこち遠出したのか杏寿郎の膝の上で休んで…ってなんでそこまで憶えてるのに手紙に突っ込まなかったんだろう私…!
蜜璃ちゃんも運悪く遠征中だったにしても。
杏寿郎の言う通り、新しい環境下で一日を過ごすので精一杯だったのかもしれない。
「歳なんて関係ないよ。杏寿郎が生まれた日のお祝いでしょ? 私はおめでとうって言いたいっ」
だって、最近目覚めが悪くないんだ。
鬼の自分を見て堕ちることが減った。
それはいつも私の一日の始まりに、太陽のように明るい「おはよう」をくれる杏寿郎が待っていてくれるから。
「…そう、か?」
「そう」
なのに杏寿郎は、大きな目を更に見開いてぽかんとした顔。
そんなに意外なこと言った?
普通だと思うけど。
人間の頃は貧しい暮らしをしてたけど、それでも誕生日にはほんの少しでも特別なことをして姉さんと二人で祝った。
姉さんと、私が生まれた日。
誰がなんと言おうと祝福されていいはずの日だから。