第11章 鬼さん、こちら。✔
「それでね、カナヲちゃんがどうやら炭治郎といい感じみたいで」
「いい感じ、とは?」
「男女のアレだよ。見ていてつい微笑ましくな…って…?」
自分だと気恥ずかしいけど、他人の恋路は可愛らしいもの。
ついつい弾む会話が、だけどふと目にした景色で止まってしまった。
…あれ?
「杏寿郎。此処、帰り道じゃないよ」
炎柱邸と蝶屋敷はよく往復してるから、帰り道の景色はもう見慣れた。
道中で紫色の花の蕾が足元に広がる草原は、見たことがない。
「偶には寄り道するのも良いだろうと思ってな」
「でも今日の鍛錬は…」
「鍛錬ならば昼間に終えただろう? 怪我も負った。夜は休みとしよう」
「でも…これくらい」
どうってことないのに。
鍛錬と言っても鬼ごっこと組手だから、準備運動みたいなもので。杏寿郎との鍛錬とは質も量も程遠い。
だからこそ渋れば、太い杏寿郎の眉尻がほんの少し下がって…あ。
優しい、顔。
「俺が蛍と息抜きをしたいと思ったんだ。いけないか?」
…そんな顔で、そんなこと言われたら。
「ううん。いい、よ」
頸を横に、振れるはずがない。