第11章 鬼さん、こちら。✔
「ならばその指の怪我は、訓練で負傷したものか?」
「え?」
その目がふと私の手元に落ちる。
欠けた指先を見つけられたことに、何も悪いことなんてしてないのについ手元を隠してしまった。
これは私の気の緩みというか、失態というか…すみちゃん達の怯えた姿を思い出せば、説明するのを躊躇してしまう。
だけど杏寿郎が怪我した手を握るから、欠けた指先を思いっきり見られてしまった。
というか凄く見てる。
あの、そんなにまじまじと見ないで下さい恥ずかしい。
「これはちょっと、事故のようなもので…」
「痛みは?」
「あんまり。今日中には再生するだろうし」
「そうか」
私の答えに納得はできたのか、うむと頷いた杏寿郎は再び帰路に──…ん?
「…杏寿郎?」
「ん?」
「…ううん」
その…手、握られたままなんだけど…。
とは正面切って言えず。
なんだろな…初詣の帰り道に杏寿郎と手を繋いだ時は、ただただ楽しかったのに。
今はなんだか、緩く握られた手が変に熱い。
手汗、掻かないかな…大丈夫かな。
意識し過ぎてしまうと、勘の良い杏寿郎に悟られてしまう。
それもなんだか恥ずかしくて、なるべく平常心をと内心呼びかけながら手を引かれ歩いた。
「それで、胡蝶の訓練はどうだった?」
「あ、うん。胡蝶というか、訓練の指揮を取っていたのはアオイ達なんだけど──」
話を振ってくれる杏寿郎に、助かったとばかりにその日の出来事を語る。
静かに耳を傾けてくれる杏寿郎の周りの空気はなんだか穏やかで、気付けば緊張も忘れて話し込んでいた。