第4章 柱《壱》
目の前の感情の読めない黒い瞳を見返す。
ここで逸らしたら駄目だ。
迷いを見せたら駄目だ。
私が生きる道は、誰かに敷いて貰えるものじゃない。
自分で切り拓かないと、進めない道だ。
「人としての死を望む、か…ふむ。悪いことではないな」
出来た沈黙の中、最初に反応したのは杏寿郎だった。
「彩千代少女は鬼殺隊ではないし、鬼として成熟した者でもない。なんの知識も覚悟も無しに、此処へ連れて来られた。そんな娘がここまで言い切れるのなら、まだ余地はあるのではないか? 冨岡」
「……」
「俺は彼女の決意に時間を割いてもいいと思っている。冨岡が許すなら、俺が彩千代少女を稽古しよう」
「……」
杏寿郎の案に、冨岡義勇の反応はない。
だけど不意にその目は私から逸らされた。
ふいと姿勢を返して、背を向ける。
「…煉獄に任せる」
「そうか!」
「ただし、」
一度だけ振り返った目が、再度私を捉える。
「やるからには途中で投げ出すことは許さない。決意したなら、成し遂げてみせろ」
淡々と感情の起伏のない声で。
「それが出来なければ、死しかない。お前の生きている場所はそういう世界だ」
冷たくも、釘を刺された。
…そうだ。
私が鬼殺隊でも鬼として成熟した者でもなかったとして、だから許される世界ではないんだ。
鬼になりたくてなった訳じゃない、なんて思いも結局は言い訳となる。
それを…呑み込めるように、ならないといけない。
「…よろしく、お願いします」
「うむ!」
杏寿郎に向けて頭を下げる。
自分に何ができて、何を成すべきかなんて、まだ何もわからないけれど。
手探りにでも、進む道を見つけないと。
ほんの僅かだけど。その道筋が今日、確かに見つかった。