第4章 柱《壱》
「…甘いな」
だけど私の意志は、あっさりと否定されてしまった。
「他者を理由にするな。何かを成し遂げたいなら、己が為に決意しろ」
自分の、為?
でも、私が生きる理由も…姉さんの命を繋ぐ為で…私自身が生きたい理由が、何処にもない。
その迷いが見破られてしまったのか、冨岡義勇の声が初めて感情を見せた。
「他者を理由にして、躓いた時はどうする。それを他者の所為にするのか。足を進める為の糧を、他者に委ねるのか」
厳しい声だった。
迷いや甘えなんて許さない、隙のない声。
…違う。他人の所為にしたい訳じゃない。
でも彼の言う通りだから反論ができない。
「…それ、は…」
「迷うな。口籠るくらいなら決意などするな。そんな生半可な決意に、柱の時間など割けやしない」
「っ…」
迷うな、なんて。
わかってる。
わかっているんだ。
わかっているのに。
「でも…私は、人間じゃない」
"でも"なんて。
そんな言葉、単なる言い訳にしかならないのに。
わかっているのに。
「なりたくて、鬼になった訳じゃない…っそれでも、私は鬼だ。そんな自分が、この世に存在していいのかもわからないッ」
人を喰うことしか、存在意義のないような化け物になったのに。
そんな自分の為に生きるなんて、簡単に決意なんてできやしない。
「それでも、鬼として生きたいなんて思えないッそんな覚悟、まだ私には、ない…ッ」
死にたいとは、もう思わない。
だけど生きたいとも、思っていない。
そんなどっちつかずの曖昧な自分の狭い立ち位置で、唯一見つけられるものがあるとしたら。
「ただ…死ぬなら…人として、死にたい…っ」
姉さんと同じように。
でもそれは、きっと叶わぬ夢。
「ッ」
此処へ来て一度も出さなかった己の主張を吐き出した勢いで、また涙腺が緩みそうになる。
駄目だ、泣くな。こんなことで。
それこそ甘いとまた思われてしまう。
唇を噛み締めて、耐え切る。
牙で裂けた唇から自分の血が滴ったけど、飲み込まずに噛み締め続けた。
血肉の誘惑も、悲観的思いも、全部邪魔だ。