第11章 鬼さん、こちら。✔
「でも…蛍のそれは、他の鬼とは違うよ。だって蛍はお姉さんに頼まれて喰ったんだから」
「あれはただの私の甘え。頼まれたからじゃ、ないよ」
見られなかった。
すぐには死ねない体で、生き苦しいと泣きながら徐々に体を殺していく姉さんを。
見ていたくなかった。
変わり果てたように生きることに絶望して、死に縋る姉さんを。
…きっと私が知らなかっただけ。
あれも姉さんの素顔の一つなんだろう。
でも私の前では一切見せようとしなかった。
そんな姉さんの、弱さ。
もっとずっと前から知っていれば耐えられたかもしれない。
そんな姉さんも姉さんだと受け入れて、どうにか助けようと奮闘できたかもしれない。
でも私も弱かった。
最後の最後まで、姉さんに甘えるだけの妹だった。
だから──…あの夢の狭間のような記憶の姉さんは私を責めてきたんだろう。
牙を向けたのは、姉さんの為の行為じゃない。
偽善ですらない、それは結局は私の独り善がりだったから。
「これが私の秘密の話。話したのは炭治郎が初めてだよ」
「どうして俺なんかに…」
「どうしてかなぁ。…炭治郎だったから、かな」
理由はきっと、それだけだ。
「炭治郎には、話してもいいかなって」
まさか泣かれるとは思わなかったけど。
鬼殺隊の剣士だけど、不思議と炭治郎はそんな枠組み関係なく聞いてくれると思ったから。
笑って返せば、またほんの少しじんわりと炭治郎の目元が濡れた。
「え、っと。炭治郎?」
「…ごめん」
ぐしぐしと再び俯いて袖で涙を拭いながら、搾り出された小さな声。
「ありがとう。話してくれて」
まさかお礼を言われるなんて驚いたけど、理由を訊くようなことはしなかった。
「…うん」
きっと、それは必要のないものだったから。
❉ ❉ ❉
「……」
蛍と炭治郎が並んで座る屋根の上。
その隊舎の陰に佇む人影が一つ。
屋根上に集中していた神経を和らげて、そっと息をついた。
蝶の髪飾りと蝶を模す羽織を着た蟲柱──胡蝶しのぶ。