第11章 鬼さん、こちら。✔
『ぅ、ぅ…っ』
体内へ取り込めば取り込む程、逆流するように両目から涙が溢れた。
『ぅぁ、ア…!』
その体が冷えて動かなくなるまで。
か細い呼吸音が聞こえなくなるまで。
片時も離すまいと、喉に牙を立て続けて。
私は、姉さんの命を喰らい尽くした。
「姉さんは、私に生きろと言ったの。生きていれば、いつかまた笑える日がくるからって。私の居場所が見つかるからって」
「……」
「姉さんのことは大好きだけど、正直その言葉はあんまり信じてない。いつも前向きに生きていたのに、辛い死に方しかできなかった姉さんだったから」
「……」
「…でも生きなきゃ。私は姉さんを喰ったから。生きて、その命を繋がなきゃ」
曲げた膝を抱いて、足先を見下ろしながら呟くように話した。
話している最中、炭治郎から相槌の一つもなかった。
だから話すというより、独り言のような気分でもあったんだけど。
「だから私は人を殺したこともあるし、人を喰べた鬼。禰豆子とは違うんだよ」
ようやく隣にいるその色に目を向ければ、炭治郎は黙って私を見つめていた。
無表情にも取れる顔には喜怒哀楽が見えない。
だけど大きく見開いた目元から──
「…なんで…炭治郎が泣くの?」
透明な筋を通って流れたのは、涙。
「っ…蛍が、泣かない、から…」
ごしごしと目元を袖で擦りながら、ようやく聞けた炭治郎の声は震えていた。
…本当に優しいね。
私はあの時姉さんの亡骸を抱いて、涙が枯れ果てるまで泣き叫び続けた。
姉さんの体が硬直して、血の海が乾きこびり付くまで。
だからあの時のことで流せる涙はもうない。
「炭治郎。禰豆子には、人を殺させたら駄目だよ。人を喰べさせては駄目」
その一線だけは禰豆子には越えさせてはいけない。
「禰豆子は特別な鬼だけど、一人じゃ耐え切れないことも沢山ある。もし禰豆子が道を踏み外そうとしたら、その時は炭治郎が引き止めて。あの子を守ってあげて」
「ッ…うん」
擦り過ぎて赤くなった目元で、だけど意志の強いその目で、炭治郎は深く頷いた。
うん。良い顔だ。