第11章 鬼さん、こちら。✔
「蛍の言っていた通りなんじゃないの?」
「え?」
身支度を整えて、後片付けがてら綺麗な風呂場を後にする。
とてとてと廊下の先を行く禰豆子を、甲斐甲斐しく追うすみちゃん達。
そんな彼女達を見守り付いていくカナヲちゃん。
最後尾で彼女達を目で追っていれば、いつの間にか隣にはアオイがいた。
「蛍のことが気にかかるから、なほ達も知りたかったのよ」
「……」
「鬼の癖に、変なところで簡単に命張るし。そういう蛍だから変な男に捕まって利用されて欲しくな……何その顔」
…いや。
「どうしよう私うっかりアオイに惚れそう」
「はぁっ?」
そんな胸きゅんなこと言ってくれるなんて。
蜜璃ちゃんじゃないけど恋してしまいそう。
「そんなに心配してくれてるの?」
「だからなほ達がって意味よッ」
「またまた。そんな赤い顔して説得力ないぞ」
「またそういうこと…っ大事なことになると茶化して逃げるのやめてくれないっ?」
逃げてる、訳じゃないんだけど。
アオイのその言葉は思いの外さっくりと私の心を突き刺して、口が止まってしまった。
…杏寿郎から貰った言葉の真意がよくわからないまま、疑問を持ってるのに。
あれから杏寿郎も何も言ってこないから、それをいいことに有耶無耶にしてる。
これも…逃げてることになるのかな…。
「蛍? 急に黙り込んでどうしたの」
「…ねぇアオイ」
「何」
「一つ…訊きたいことが、あるんだけど」
本当は、雛鶴さん達に相談してみようと思ってた。
でも天元に邪魔されて。
蜜璃ちゃんだと全部の事柄に胸きゅんされてしまいそうで、言うにも言えなくて。
廊下の隅で足を止める私に、同じく足を止めたアオイへと、気付けば吐露していた。
「何?」
「ええと…これは知り合った女の隠さんの話なんだけど、ね」
なのに別の人の話だとか嘘つくなんて。
私も度胸ないな…。
「とある男性に…"特別な女性(ひと)だ"って言われたんだって。…それ、どういう意味だと思う…?」
恐る恐る問いかけてみる。
あんなに第三者の意見が聞きたかったのに、いざとなるとなんだかちょっぴり怖い。