第11章 鬼さん、こちら。✔
「蛍さんの気になる殿方の話、聞きたかったな…」
「誰なのかな?」
「あっ不死川さまとか?」
「なんで」
いやよくなかった。
全然流れてなかった。
禰豆子の長い髪をたおるで丁寧に拭きながら整えていたら、同じく髪を拭き合っている三人娘が聞き捨てならない名を出した。
何故不死川。
玄関先で一緒だったから?
それだけで?
断じてないぞあの男だけは。
「もしかしたら冨岡さまかも?」
「そういえば蛍さんが入院中、よく顔を見に来てたもんね」
「それって素敵っ」
突っ込みは小さな声だったから、生憎話に花を咲かせるすみちゃん達には届かなかったみたい。
義勇さんか…そういえば私が意識を失っている間も、何度も足を運んでくれていたとか…。
何度も…何度も何度も何度も。
終いに胡蝶にブチ切れられるまで。
目覚めた後、胡蝶が愚痴のように私に告げていったっけ。
どれだけ頻繁に来てくれたんだろう。
「♪」
「禰豆子。その簪、返してもらえるかな?」
ころころと掌で玉簪を転がして遊んでいる禰豆子に、後ろから覗き込んで頼み込む。
すっかりその興味は簪に向いていて気は引けるけど、あげる訳にはいかない。
「大事なものだから。お願い」
「…う」
じっと見てくるぱっちりおめめが、やがて納得したように瞬いた。
こくんと頷いて、私の掌に簪を転がしてくれる。
よかった、伝わって。
「もしかしたら師範の煉獄さまかも…っ」
「煉獄さまは、柱合会議で一番に蛍さんを認めて継子として迎え入れようとした御人だって」
「それも素敵っ」
…まだ続いていたのか。
きゃあきゃあと楽しそうに話す彼女達を止めるのも忍びなくて、簪を大事に懐にしまってたおるを畳む。
「女の子はあれよね、恋の話が好きよね…」
「さっきまで食い付いていた蛍が言う台詞?」
ご尤もで。
しみじみと呟けば、即座にアオイの突っ込みが入る。
うん、返す言葉もない。