第11章 鬼さん、こちら。✔
「私は仕事と家のことでいっぱいだったから、誰かを好きになるなんて…」
姉さんを理由にしたい訳じゃないけど、あの時は姉さんしか見えていなかったから。
すみちゃん達に気圧されながら答えれば、ずいっと顔を寄せてきたのはアオイ。
な、何?
「じゃなくて、今のことよ」
今?
今って…今の、私?
「鬼の私が?」
「そんなの関係ない。鬼でも蛍は蛍でしょ」
あ。なんか凄くじんときた。
アオイにそんなふうに言って貰えるなんて。
「それで?」
…あ。でも流してはくれないんだね…。
「う、うーん…生憎、他の鬼は禰豆子しか会ったことないからなぁ…」
「なんで鬼同士限定なの。人なら沢山いるでしょ」
「…私、鬼だよ?」
「だから?」
「…や…その、」
鬼の私が人を好きになっても、というか…好きになっていいのか、というか…。
鬼なのに。
「だから蛍は蛍だって言ってるでしょ。変なところで尻込みしないでよ」
変って。多分、尤もな感情だと思うけど。
鬼に好かれて喜ぶ人なんて普通いないでしょ。
だからアオイは凄いこと言ってくれてるの。
「ありがとうアオイ…私が男だったら、アオイをお嫁さんにしたいな…」
「な、何よ急に」
だって炊事洗濯家事身の周りの世話ありとあらゆることをできる技量の良さに、強い芯のある性格だけど鬼である私を受け入れる柔軟さもある。
こうして偶に見せる照れも可愛い。
最高だなお嫁さんにしたい。
「伊之助が恋敵か…今のところは私が優勢かな。大親分だし」
「だからなんでそこで伊之助さんが出てくるのっ!?」
「そんな顔赤くして言っても説得力ないぞ」
「これはお風呂場だから…って、」
「ムぅ…」
「禰豆子?」
すっかり話し込んで、この場のことを忘れていた。
ふやけたお麩みたいにふにゃふにゃと私にもたれ掛かってくる禰豆子に、はっとする。
まずい。
「一先ず出よう! 皆逆上せるっ」
慌てて禰豆子を抱えて浴槽から上がる。
そうしてばたばたと風呂上がりの身支度へ進めば、自然と私の話は流れてくれた。
よかった。