第11章 鬼さん、こちら。✔
「じゃあアオイのお陰だね」
「え?」
「今のカナヲちゃんがいるのは」
「そんな…私がやれることは、誰にでもやれることで」
「誰でもじゃないよ。そんなアオイがカナヲちゃんの傍にいてくれたから、鬼である私や禰豆子とも一緒にお風呂に入ってくれる優しい子になったんじゃないかな」
「そんな…」
「そうですよ!」
「アオイさんは技量がよくてしっかり者で、それでいて凄く優しくて!」
「カナヲさんにも、何度も読み書きや世の中のことを教えて下さいましたし!」
カナヲちゃん自身の口からじゃないけど、彼女も否定しないところ、すみちゃん達の言葉は本当なんだろう。
「ほらね」
そして何よりカナヲちゃんを見れば一目瞭然。
彼女の色は、愛らしくて甘酸っぱい躑躅色(つつじいろ)。
その色がほわほわと、カナヲちゃんの周りを柔らかく舞っていたから。
カナヲちゃん自身も恥ずかしいのか、俯きがちに、でもその口元は綻んでいた。
「いいなぁ。仲良しで」
「ムゥっ」
「ん? そうだね、禰豆子と仲良しだもんね」
素直に羨めば、ぴたぴたと肩を叩いてくる鋭い爪を持った鬼の手。
私を見ろと主張してくる禰豆子は、まるで無邪気な妹みたいだ。
…姉ってこんな気持ちなのかな。
よしよしとその頭を撫でれば、途端に満足そうに笑う。
そんな可愛い鬼を愛でていれば、くすくすとすみちゃん達も愛らしい声を上げて笑った。
「カナヲさん、あの時みたい」
「うん」
「可愛らしいね」
あの時?
三人のひそひそ声は、鬼の私なら拾える。
何を話しているのかと聞き耳を立てれば、意外な名前が飛び出した。
「炭治郎さんと一緒にいた時の」
炭治郎?
って、あの炭治郎?
…え?
そのほわほわな空気を纏ってるカナヲちゃんが、炭治郎と一緒にいた時の姿?
「何それ詳しく」
「わっ」
「蛍さんっ?」
「詳しくって…」
つい三人の間に顔を突っ込めば、驚いた粒らな瞳が私を捉える。
だってねぇ気になる。
あの感情が見えないカナヲちゃんが、アオイ達以外の…それも男の子にあんな顔を見せてたなんて。
もしや。
「もしかしてアレ? アレなのかな?」
「こ」で始まって「い」で終わるやつとか。