第11章 鬼さん、こちら。✔
「…カナヲちゃん」
「?」
「さっきはありがとう。訓練、つき合ってくれて」
ゆっくり湯船の中で歩み寄る。
相変わらず口数はほとんどなく、目だけ向けてくるカナヲちゃんの隣に腰掛けた。
カナヲちゃんは余り喋らないけれど、全く話さない訳じゃない。
無表情も多いけど、全く感情を見せない訳でもない。
ただ何か問われて答えることが多かったから、自発的なものは珍しかった。
それでも私との訓練を自ら承知したのは、きっと──
「胡蝶の継子だから、受けてくれたんでしょ」
「え?」
「しのぶさまの?」
「どういう意味ですか?」
カナヲちゃんは相変わらず黙ったまま。
すみちゃん達が、不思議そうに問い掛けてきた。
「伊之助が柱同士の勝負だなんて言うから、きっと私と同じ理由で受けてくれたんじゃないかなって」
炎柱の継子という肩書きで周りに見られているとあらば、簡単に辞退する訳にもいかない。
できるならば勝ちたい。
それだけ、杏寿郎のことを師範として尊敬しているから。
だから…カナヲちゃんもきっと、それだけ胡蝶への思いがあったんだと思う。
「胡蝶のこと、大切にしているんだね」
そう笑いかければ、きょとんと見てきたまぁるい目が瞬いたかと思えば…俯いた。
あれ…なんだかほんのり、顔が赤いような…これはお湯の所為?
いや違うよね?
カナヲちゃん自身だよね?
か…可愛いな!
「カナヲさんは、しのぶさまを姉のように慕っていらっしゃいますから」
「ほとんど姉妹のようなものですよ」
「アオイさんもですよね」
「そうなの?」
継子というより、姉妹のような絆があったんだ。
なら尚更だよね…勝ってよかったのかな、私…。
「私は、剣士として鬼と戦えなくなったから…屋敷の手伝いをしていて、カナヲのことも必然と身の周りの世話を…」
細々と告げるアオイの小さな声には、自信が見受けられない。
そういえばアオイは、だから鬼殺隊でありながら、炭治郎達剣士のようにも後藤さん達隠のようにも働けないんだって、名前を初めて呼んでくれた日に聞かせてくれた。
最終選別で合格はしたものの、その時に受けた鬼の恐怖に足を絡め取られて、それから先へは進めなくなってしまったのだと。