第11章 鬼さん、こちら。✔
「わ、広い。そして綺麗!」
「治療場にもなるので、清潔さは第一ですからっ」
「足元滑らせないように、どうぞっ」
「お湯今溜めてますからねーっ」
皆で向かった蝶屋敷のお風呂場は、炎柱邸よりも広かった。
そして隅々までピカピカ。
流石、入浴介護に使うだけある。
てきぱきと一番年下なのに慣れた様子で準備をしてくれるすみちゃん達に甘えて、服を脱がせた禰豆子の手を握って踏み込む。
カナヲちゃんを目の端で捉えれば、特に恥じらう様子はなく慣れた様子で体の汚れを流していた。
…ううん。恥ずかしがってた訳じゃないのかな?
「ム!」
「あ、うん。禰豆子も体、綺麗にしよっか」
未だ輝く目で誘ってくる禰豆子に笑顔を向けて、洗い場へと向かった。
「はぁ〜、極楽極楽…」
「なんかそれ親父臭いわよ、蛍」
「だって本当に極楽なんだもん。こんなお風呂にいつも入れるなんて、羨ましい」
肩まで浸かった熱いお湯に、ついほぅっと息が漏れる。
同じく体を綺麗にし終えたアオイ達も浴槽に入れば、ざぱりとお湯が溢れ流れた。
贅沢な使い方だ。
「煉獄様の屋敷では入れないの? お風呂」
「ううん、入れるよ。でもそれまでまともにお風呂に入ったことなかったから」
つい緩む顔のまま返せば、途端にアオイが複雑な表情を見せた。
あ、もしかして監禁されてた時のことだと思ったのかな。
「私が人間だった頃ね。おうちにお風呂、なかったから」
「…そうなの?」
「うん。病で伏せた姉さんと二人で暮らしていたから、食事代とか薬代に回す方が大事で」
「ムゥ〜♪」
「あ。禰豆子動かないで」
長い禰豆子の髪を湯船に浸からないように一つにまとめてあげると、義勇さんに貰った玉簪で留めてあげた。
頭を揺らして笑う禰豆子はすっかり上機嫌。
これで満足してくれたかな?
「蛍さんも、大変な生活をされていたんですね…」
「私"も"?」
「カナヲさんも、鬼殺隊に来る前は…」
そうなんだ。
なほちゃんの言葉に、最後に湯船にゆっくりと入り込むカナヲちゃんを迎え見る。
洗い終えた髪をまとめて、またあの蝶の髪飾りで留めていた。
…大切なのかな、あの髪飾り。