第11章 鬼さん、こちら。✔
「我儘を言ったら駄目だ、禰豆子。蛍は俺達の訓練を手伝ってくれたんだから」
「ムゥ…」
というか単に投げ飛ばしてただけだけど。
しょんぼりと俯く禰豆子が余りに不憫で、炭治郎に向けて頸を横に振る。
禰豆子は悪くないから。
「怒らないであげて。私が禰豆子に会いに来たんだから。それなのに放っておかれたら、機嫌も悪くなるよ」
禰豆子は未だしょんぼりとしたまま。
カナヲちゃんの体は薬湯で臭いまま。
私も訓練で多少汗を掻いたし。
よし。
「アオイ。訓練も一通り終わったし、カナヲちゃんをお風呂に連れていってもいい?」
「それはいいけど…」
「じゃあ、」
右手で禰豆子の手を握り、左手でカナヲちゃんの手を握る。
カナヲちゃんには振り払われるかと思ったけど、不思議そうに見てきただけだった。
よし。
「お風呂に行こう! 皆で!」
高らかに宣言すれば、ぽかんと周りの目が丸くなる。
「…お風呂?」
「皆で?」
「そう。アオイとなほちゃんきよちゃんすみちゃんも」
「えっあたしたちもですか?」
「うん。それとも蝶屋敷のお風呂は皆で入れない感じ?」
「いえっそんなことないです!」
「患者さんの入浴介護にも使うので、浴槽は広く作られています!」
流石、治療専門の屋敷。
「じゃあ問題ないね」
「待って蛍、なんで私まで…っ」
「その方が禰豆子も喜ぶから」
「え?」
ね、と握った右手の先を見れば、詳細は伝わっているのかいないのか。皆で何かすることはわかったんだろう、禰豆子の目がきらっきらと輝いてこっちを見ている。
その目、炭治郎に似てるなぁ。
澄み切った少女の眼差しにアオイも強く出られなかったんだろう。言葉を詰まらせるようにして濁した。
鬼でも人でも、無垢な少女の瞳は強い。
「炭治郎、禰豆子借りてもいい?」
「禰豆子が喜ぶなら俺は構わないけど…」
「女の子の入浴(楽園)だ と…!?」
楽園て。
善逸はなんだか読みが可笑しい気がする。
鼻息荒いから落ち着いて。
「伊之助。あの黄色いたんぽぽがお風呂覗くのを阻止してくれるかな」
「そっそそそんなことしないよ!? てかたんぽぽって何!」
そんな挙動不審だと説得力ないから。
たんぽぽはたんぽぽです。