第11章 鬼さん、こちら。✔
「じゃあ後で消毒し直そうかな…」
「駄目だ、今しないと!」
「そ、そう? でも」
「そしてその包帯を俺にくれないか!」
「わかっ…なんで?」
真剣な眼差しで頼んでくるから、つい頷きそうになったけど待って。
なんで使用済みの汚れた包帯をあげなきゃいけないの?
…炭治郎、いつから善逸みたいになっちゃったの。
「やだよ、こんな汚い包帯」
「お願いだ、そこをなんとか…ッ」
「だからなんで」
「それは…っ」
「それは?」
問えば、炭治郎の顔が歪む。
あ。言いたいけど言えないような顔だ。
何。え?
もしかして本当に善逸みたいな理由なの?
「駄目だよ、炭治郎。いくら四六時中傍にいるからって、善逸みたいな思考に染まっちゃ」
「待って蛍ちゃん。俺流石に女の子の血のついた包帯欲しがる程変態じゃないよ?」
「え? 違うの?」
「違うよ!?」
思わず黄色いたんぽぽ頭を凝視すれば、目玉剥き出し気味に返された。
そうなの? てっきり。
「心外だわ…本当心外だわー! そして炭治郎はいつまで蛍ちゃんの手首握ってんの離れろよ心外!!」
最後の心外は取って付けただけでは…。
そして善逸の罵声は届いていないのか、未だに手首を握ったまま真剣に見てくる炭じろ…視線が痛い。
なんでそんな清らかな目で使用済み包帯を欲しがるのかな…。
外見と行動が一致してない感じがする。
うっかり包帯あげてしまいそう。
「ムゥう〜!!」
「わっ?」
すると、どんっと急に背中を押された。
振り返れば、腰に回る細い腕が二つ。
「だよね禰豆子ちゃんも心外だよね!?」
や、善逸それはちょっと違うと思うよ。
「ムゥ! ムゥムー!!」
「ね、禰豆子?」
ぎゅぎゅうと私の背中から突進と、抱擁と言うなの羽交い締めをかました禰豆子が、不満を露わに声を上げる。
ふと訓練場の窓を見れば、元々曇り空で暗かった空が尚暗い。
あ…訓練につき合って、すっかり禰豆子を放置してしまっていた。
遊ぶはずだった時間を取り上げられたことに、怒りでもしたんだろう。
「ごめんね、禰豆子」
「ムム…!」
駄目だ。
謝ってもこの可愛らしい鬼は、そう簡単に機嫌を直してくれそうにない。