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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第11章 鬼さん、こちら。✔



「いたた…蛍は凄いな…あんな体制で反撃できるなんて…」


 背中を擦りながら起き上がる炭治郎が、またキラキラした目を向けてくる。
 あれは蜜璃ちゃんの柔軟体操のお陰かな。
 最初は筋とか切ってたけど、今では靭やかに動けるようになったから組手では凄く役に立ってる。
 天元にも以前褒められたっけ…女の方が男より柔軟だとかも言ってた。

 今まで柱ばかり相手にしてたから気付かなかったけど。それなりに私も力がついてたんだ。

 息切れしている伊之助達に対して、私の呼吸が乱れていないのはきっと鬼だからだけじゃない。
 杏寿郎の地獄のような基礎体力運動を毎日行っていたお陰だ。

 こうして実感すると、師である杏寿郎だけじゃなく天元や蜜璃ちゃんやあの不死川との手合わせだって。
 訓練中は凄く苦しくて辛かったけど、どれも無駄なものなんてなかった。
 全て私の為になってたんだなぁ…。


「…ん?」


 なんだか感情めいたものを感じていると、目の前でくんくんと鼻を鳴らす炭治郎が映る。
 その鼻先は何か匂いを辿るようにさ迷って…んん?


「蛍?」

「え?」


 何? なんでこっち見てるの?
 匂いならカナヲちゃんの被った薬湯の方が臭うはずじゃ…ってそうだ薬湯!
 忘れてた!


「血の臭いが…あっ」


 不意に下がった炭治郎の目が、それを捉える。
 と同時に手首を掴まれた。

 あ。


「血が滲んでいるぞ」

「あちゃ…」


 匂いの発信源は、私の欠けた指の付け根だった。
 すっかり血も止まって傷口も塞がってたと思ったけど、さっきの組手でぶつけたのか。包帯の下からじわじわと赤い液体を滲ませていた。

 あ、なんか意識したら痛くなってきたぞ…。


「大変だ、止血しないと…ッ」

「大丈夫だよ、これくらい。夜には指も再生してるだろうし」


 杏寿郎に血を貰ったばかりだから、血の色や匂いを感じても特に飢餓症状は出ない。
 ひらひらと手を振って笑顔を向ければ、がしっと更に両手で手首を…お?


「鬼だからって傷を軽視したら駄目だ。そこから雑菌が入れば治りも遅くなる。と思う!」


 真剣な眼差しで手首を両手で握り、喝を入れるように伝えてくる。
 鬼だから雑菌も何も問題ないと思うけど…不思議かな。
 炭治郎の言葉だと、つい耳を貸してしまう。

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