第11章 鬼さん、こちら。✔
「どうですか、訓練は…あれ?」
「蛍さん?」
「なんで此処に?」
「なほちゃんきよちゃんすみちゃん!」
訓練のお手伝いをしているんだろう、突如ひょっこり顔を出したのはあの三人娘。
なんだか同じ展開少し前にもあったような…と思いながらも救いの手を伸ばす。
誰か、手拭いか何か持ってないかな…っ
「カナヲが負けるなんて…」
「えっ負けた?」
「蛍さん勝ったんですか?」
「二人で勝負っ?」
突然の情報量に頭が回らないんだろう。アオイの反応に、すみちゃん達が慌てる。
うん、そうなるよね。
「この調子なら鬼ごっこも勝てるんじゃねぇか?」
鬼ごっこって…もう一つの全身訓練?
あんなにカナヲちゃんと勝負するのを嫌がってた伊之助なのに、爛々と目を光らせてこちらを見てくる。
いやいや顔に臭い汁ぶっかけてしまっただけでも申し訳ないのに。
「……」
「…カナヲちゃん?」
ぶんぶんと頸を横に振っていれば、目の前ですっと立ち上がる影。
と、じっと見下ろしてくるカナヲちゃんの大きな瞳が…
「え?…やるの?」
まさか。
唖然と問えば、こくんと顔が頷いた。
「カナヲ、その訓練は本来は炭治郎さん達の為のもので…」
「…一回だけ」
え。
小さな声で一度だけと主張するカナヲちゃんに、思わずアオイと見合う。
こんな儚げな少女に一度だけのお願いをされたら断れるはずがない。
「俺、カナヲちゃんがあんなに積極的なの初めて見た…」
私もだよ善逸。
「蛍もカナヲもすごいなぁ…俺ももっと鍛えないとっ」
私は地獄の特訓を受けていたからで…そんなキラキラした目で見ないで炭治郎。眩しい。
「その次はオレだぞ! オレにも勝負させろ!!」
だからいきなりやる気出してどうした伊之助。
周りに反対する者はいない。
しっとりと濡れた前髪もそのままに、じっと見下ろしてくるカナヲちゃんに無言の催促をかけられているみたいだ。
「…わかった。じゃあ、一回だけ」
仕方なしにと、膝を上げてカナヲちゃんと向き合う。
一回だけ、ね。一回だけ。
その後はお風呂に行こう。
カナヲちゃんの濡れた頭と服を、どうにかしないと。