第11章 鬼さん、こちら。✔
「それでは、始めっ!」
手刀のように振り下ろすアオイに、湯呑みに手を伸ばし──って速!
「わっちょっ」
十個の湯呑みに不規則に伸びるカナヲちゃんの手は、速過ぎて一瞬しか色を捉えられない。
咄嗟に湯呑みの上に蓋をするように手を置いて防ぐだけで精一杯。
ちょっと速過ぎない!?
機械的な笑みを浮かべて涼しい顔のまま繰り出される手捌きに、つい翻弄されてしまう。
けど私も生半可に鍛えていた訳じゃない。
特に反射運動は天元との訓練で鍛え上げられた。
どうにか防ぐことはできる。
体力には自信があるから、先に疲労することもない。
「お、おお…っなんかよくわかんないけど凄い!?」
「でも先手を取ってるのはカナヲだ…蛍、頑張れ!」
「それでも炎柱かよ!?」
だから炎柱じゃないってば!
外野の声は無視して、目の前で飛び交う互いの手にじっと目を凝らす。
すると一瞬しか見えていなかった手捌きが目で追えるようになった。
最初は驚いたけど、この速さなら──天元が勝る。
「っ!」
カナヲちゃんから防いだ湯呑みからその手が退く。
それが完全に手元に戻る前に、左手で同じ湯呑みを掴み取った。
いける…!
湯呑みの上に掌の影が差す。
それが覆い尽くす前にと、渾身の力で湯呑みを振り被った。
バシャッ
振り被った先、湯呑みから飛び出した薬湯が…あ。
「……」
「ああああ! ごめんなさいッ!!」
思いっきりカナヲちゃんの顔目掛けてぶち当たっていた。
び、美少女の顔に臭い汁かけてしまった…!
大変!!
「おおお! 蛍ちゃんが勝ったぁ!?」
「最後の手捌き、見えなかった…」
「よぉしオレ様とも勝負しろォ!!」
外野でわいわい騒いでいる伊之助達はとりあえず置いておいて、びしょ濡れのカナヲちゃんに駆け寄る。
うっわ臭い!
本当に臭いなこの薬湯!
「ご、ごめんねっすぐ拭くから…っ」
急いで着物の裾で濡れた顔を拭えば、ぽかんとカナヲちゃんの目が私を見つめる。
わ、近くで見ると益々美少女!
濡れた様がなんかえろ…すみません!