第11章 鬼さん、こちら。✔
アオイの問いに頷くカナヲちゃん。
ということはさっきの可憐な声は、やっぱりカナヲちゃんだったんだ。
…わかってたけど余りに驚き過ぎて疑ってしまった。
「カナヲが言うなら…蛍、いい?」
「あ、うん」
相手となるカナヲちゃんが認めてしまえば、私も腰を上げざる負えない。
訓練場の隅っこで座っていた体を上げると、裾を引っ張る禰豆子の頭を撫でた。
「ちょっと行ってくるよ。待ってて」
「ムゥ…」
促されるまま、沢山の湯呑みが置いてある机をカナヲちゃんと向き合って座る。
わ。近付くとわかるけど、この薬湯臭いが凄い。
鼻が曲がりそう。
「お互いに薬湯を掛け合うんだけど、持ち上げる前に相手から湯呑みを押さえられた場合は、動かせないから。注意して」
「わかった」
アオイの説明を受けながら、一定間隔で置かれた湯呑みを数えれば全部で十個。
私の指を斬った時の身のこなしといい、カナヲちゃんの反射速度はきっと類を見ない速さだ。
だから炭治郎達も負け続けてると思うし…。
「継子同士ってなんかドキドキする」
「俺もだっ」
「おい鬼! お前の炎柱の強さ見せてみろ!」
だから私は炎柱じゃないってば。
そういう言い方するから断れなくなってしまったんだよ。
というかいい加減伊之助は名前覚えて。
鬼呼ばわりするのはおっかな柱だけで十分だから。
「一度だけですよ! その後は貴方達の訓練に戻りますから!」
机の横に立ったアオイが、すっと片手を挙げる。
あ、それ振り下ろすのが合図?
「じゃあ、あの…よろしくお願いします」
動かし易いようにと着物の袖を捲りながら頭を下げれば、カナヲちゃんは瞬き一つさえせず無反応だった。
ううん…それがいつものカナヲちゃんなのに、なんで私との訓練を受けるなんて言ったんだろう…。
って今それ考えても仕方ないか。
どうあっても負けそうな気がするけど、私も黙って白旗を振る気はない。
だって伊之助達の目には、継子同士の勝負に見えてるから。
炎柱の継子という肩書きを背負って挑むなら、師範である杏寿郎の顔に易々と泥を塗る訳にはいかない。
というか泥なんて塗りたくない。
鬼である私を受け入れ、人としても見てくれた人だから。