第4章 柱《壱》
「宇髄さんが蛍ちゃんに冷たくするから、恥ずかしがってるのよきっとっ可愛いっ」
「……」
「なんにでも可愛いって付けるの、とりあえず止めろ」
ずかずかと大股で大きな体を檻の中に忍者が入れてくるから、更に人口密度が増す。
それでもほんわかと間に会話を入れてくる蜜璃ちゃんの言葉に、思わず忍者と揃って渋い顔をしてしまった。
こればっかりは忍者に同意だ。
そしてそういう意味では恥ずかしがってません。
「稀血を喰わなかったからってなんだ。それが人を襲わない証拠にはならねぇだろ」
冨岡義勇や杏寿郎より遥かに勝る上背に大きな図体は、視覚からの威圧が強い。
目の前で見下されると、どうしても萎縮してしまう。
確かに忍者の言う通りだ。
私も私を制御し切れる自信なんてない。
…さっき杏寿郎の言っていた、あの呼吸がもし扱えるようになれば…その自信もつくようになるのかな。
「…証拠なんて、作れない」
「あ?」
萎縮しても、自信がなくても、それでも悪態をつく忍者に言葉を向ける。
どうにかして自分の意思を向けられたのは、間に冨岡義勇が立っていてくれたお陰だ。
そして、心に届いた杏寿郎の言葉があったから。
「私が人を喰らうことも、人が人を喰らうことも、どこにも保証なんて、ない」
誰だってそうだ。
私が杏寿郎に殺されない保証はない。
それでもその腕の中で安心できたのは、初めて寄せられた"心"があったから。
作れるとすれば、それは証拠じゃなくきっと他者との間の"信頼"。
「人間が人間を喰らうかよ。何言ってんだ」
呆れた忍者の反応に、俯きそうになる。
確かに、言葉通りの行為はきっとないだろう。
でも、人間は人間の心を喰うことができる。
そのことを、私は知っている。
「…っ」
思い出したくない光景を思い出しそうになって、強く拳を握った。
違う、今はそんなこと思い出している場合じゃない。
今、私がやるべきことは。
「証拠は、作れない、けど…自分がやるべきことは、わかる」
忍者の強い眼孔を見上げて、逸らすまいとした。
杏寿郎がそうしてくれたように。
「"呼吸"を、憶える」