第11章 鬼さん、こちら。✔
不死川の反応に内心納得する。
ということは、やっぱりあの声は不死川のものだったんだ。
「…憶えてんのか」
「朧気に、だけど」
出口を塞がれた地下通路の中で、火に炙られ全身を焼かれた。
余りの激痛に途中から感覚は麻痺して、意識諸共朦朧としていた。
五感のどれもが曖昧で、ただただ暗い闇の中。
最初に見つけた色は、優しい白菫色。
不死川の色だったんだ。
届いた声もくぐもったものだったけど、何故か名前を呼ばれたのはわかった。
その優しい色だったからなのかな…暗闇の中で見つけた一点の光のように、安堵したのは。
私を、見つけ出してもらえたことに。
「名前、知らないかと思ってた」
鬼呼ばわりしかしてこなかった不死川だから。
でもあの時確かに、不死川は私の名を呼んだ。
「鬼殺隊で生かす鬼の名前くらい把握してる。呼んだのは偶々最初に見つけたからだァ」
「でも蝶屋敷まで運んでくれたのも、不死川だったでしょ」
憶えてるよ。
ずっと傍にあったのは、その色だったから。
私にここまで冷たいのはきっと鬼だからであって…不死川の根本は、その色と通ずるものがあるのかも。
…まぁ義勇さんによく喧嘩売ってる堪忍袋の薄さは、もう相性の問題だな。うん。
水と油な感じがするし。
「勘違いすんな、あそこに放置してもくたばんねェだろォ。だから運んだだけだ。死にかけの鬼なんざ斬り甲斐がねェからなァ」
不死川らしい言い分だと思う。
でも、あの火事は柱合会議の真っ最中に起こった。
そこで一度胡蝶が私の処罰を求めていたと、義勇さんから聞いたんだ。
それでも不死川が選んだのは私を生かす道。
あの場で、救えないからと私を斬り捨てることもできたのに。
でもそうしなかった。
「…はぁ」
「なに人の顔見て溜息ついてんだ」
「や…自分でも言い訳がましいなって」
「はァ?」
認めたくはないけど、でもよくよく見れば見つかる。
殺人鬼みたいな顔の下にある、不死川の綻び。
その優しさの綻びを、玄弥くんは慕っていたのかな…。