第11章 鬼さん、こちら。✔
「いちいち言い訳みたいな理由付けするより、そっちの方がよっぽどマシだな。殺し甲斐がある」
「ってちょっと待って納得いかない」
殺し甲斐って聞こえたけど空耳?
空耳じゃないよね。
「お前の承認なんざいるかァ。俺も俺の為に鬼を狩ってんだ」
…まさか主張返しされるとは。
「私やっぱり不死川に殺されるのだけはごめんかな…」
「ンでだコラ」
「だって凄い痛い殺され方しそう…」
残虐の限りを尽くされる的な。
殺人鬼のような笑顔で高笑いしながら殺される的な。
安易に想像できてしまって身が震える。
「阿呆かァ、お前が抗わねェならしねェよ」
安易過ぎたから、驚いた。
その返しに。
「無抵抗な奴をいたぶる趣味はねェ」
「嘘だ」
「ァあ?」
思わず即答否定してしまった。
いやだって。
稀血の子供の腕を、差し出して欲を煽ってくるような男なのに。
「今更そんな優しさ要らないよ無理しなくていいよ…」
「お前俺をなんだと思ってんだコラ」
「泣く子も黙る極悪非道の風柱」
「ンだその馬鹿げた異名は殴んぞ」
また!
慌てて片手で頭を庇えば、握り拳を見せてきた不死川はそれを振るうことはなく。深々と溜息をついた。
「…鬼だって元は人間だろうが。鬼になった時点で終いだがな。人殺しを楽しんだ鬼は別だが、そうでなけりゃいたぶる意味はねェ」
「…本当に?」
「わざわざ嘘つく意味があるかよ、お前に」
それは…そうかもしれないけど。
でも意外。
鬼は皆殺しが口癖みたいな人だったから。
そこに同情の一欠片もないと思ってたけど…同情とはまた、違うけど。
不死川なりの意思があったんだ。
「勘違いすんなァ。これは優しさでもなんでもねェ。鬼の殺し方のただの線引きだァ」
どうであっても鬼は殺すに値すべき。
そう目が語っていて、さっきよりはすんなりと受け入れられた。
確かに、不死川の性格なら見限るのが普通だ。
鬼なのに私を私として受け入れてくれた杏寿郎や義勇さん達が稀なんだ。
人間を餌とする鬼だから、不死川の方がきっと一般的な感覚だと思う。
…だけど。
「…でも…呼んで、くれたでしょ…?」
「あ?」
「名前。火事の時…一番、最初に」
そう告げれば、血走った目が驚きで見開いた。