第11章 鬼さん、こちら。✔
「…話してどうなるってんだ」
ようやく口を開いた不死川から、珍しくも落ち着いた声が届く。
「どれだけ綺麗事を並べたって、テメェが鬼であることには変わりねェ」
けど、その姿勢は簡単には揺るがなかった。
…そんな台詞、もうどれだけ周りに投げ付けられたか。
耳にタコだよ。
「知ってるよ。私が鬼であることなんて私が一番わかってる。人間を見て飢えを覚える自分に吐き気がするし、太陽を二度と感じられないことに虚しくなる。そんなこと、もうわかってるから」
自分と同じ生き物を、餌として見てしまうこと。
体だけじゃなく心まで暖かくしてくれる、あの陽だまりを二度と感じられないこと。
そういうことを実感する度に、途方もない絶望はくる。
だから言われなくてもわかってるの。
自分が、もう人間じゃないことなんて。
言葉にすれば余計に堕ちる。
でもそんなみっともない姿を、この男の前では見せたくない。
「綺麗事だなんだ好きに言えばいいよ。でもその綺麗事を道筋に走ってる人もいるから。その人達を不死川の価値観一つで否定はさせない」
私は兄より弟くんを応援し隊なので。
「勘違いすんなよ。俺はテメェの話をしてるんだ。その他大勢の主張なんざ知るかァ」
だけど間髪入れず返された言葉に、思わず口が止まった。
私の目は不死川越しの玄弥くんを見ていたけど、不死川の目は私を見据えていた。
鬼という枠組みでしか見ない男だと思ってたから、内心驚く。
「…綺麗事でいいよ」
だけどこれは願ったりだ。
「私は私の為に生きてるの。その為に必要なら、綺麗事だって汚れ事だってなんだって吐くよ。博愛主義じゃないから」
こんな自分が生きていていいのか、未だに躓くことはある。
でも、こんな私に義勇さんは生きろと言ってくれた。
だからこそ彼を私の生きる理由にしてしまいたくはない。
私は私の戯言で、進むだけだ。
「へぇ…多少はマシな目するようになったじゃねェかァ」
一時も逸らすことなく見返した目は、殺気立ってはいなかった。
何がどうマシなのかわからないけど、不死川の地雷にはならなかったらしい。
相変わらず目かっ開いて笑ってるけど怖い。