第11章 鬼さん、こちら。✔
「はッ、好きだとォ?」
沈黙は一瞬だけだった。
口角をつり上げて再び笑う不死川の顔は、凡そ喜びとはかけ離れたもの。
「何浮ついたことほざいてやがる」
心底人を馬鹿にしたような笑みだ。
「喰うか喰われるかの時代に、そんな感情必要かよ。しまいにゃテメェは鬼だろうがァ。鬼同士で繁殖行為でもするってか?」
…興味ないならないと言えばいいのに、なんでそんな言い方しかできないのかな。
いや、私だからそうなのかもしれない。
けど。
「鬼同士云々は知らないけど…その感情を馬鹿にする意味がわからないんだけど」
私がこの地で人喰い鬼になることなく立ち続けられているのは、姉さんへの思いがあったからだ。
誰かを思う気持ちは人を弱くするかもしれないけど、強くもする。
それが不要だとは思わない。
「こんな時代だから、守りたいものの為に戦うんでしょ。それとも不死川は殺しが楽しくて鬼殺をしてるの?」
ぴくりと不死川の血走った目が私を捉えたまま止まる。
答えなんて訊かなくてもわかる。
殺人鬼みたいな性格してるけど、この人は殺人鬼じゃない。
…鬼からすればそうかもしれないけど。
「私だって守りたいものがあるよ。その為に強くなろうとしてる。それは私だけじゃない」
玄弥くんだってそう。
追いかけて、追いついて、対等に言葉を交したい人がいるから。
自分の為じゃなくて、あんたの為に。
その為に鬼喰いまでして、身を削ってまで強くなろうとしてる。
「他人に嫌われるのは簡単だけど、好きになってもらうのは難しいこと。それでも不死川のことを大事に思ってる人がいることを知ってる。私はあんたが嫌いだけど…それだけ、私の知らないあんたがいることもわかる」
今目の前にいるこの人は、氷山の一角だ。
私の奥底を不死川が知らないように、私も不死川の奥底は知らない。
「だから言葉を交わしたいと思ったの。すぐに喧嘩腰になるのはやめて」
なのにああ言えばこう言うで、全く話が進まない。
ついでに足取りも進まない。
これじゃ蝶屋敷に着く頃には日が暮れるから。