第11章 鬼さん、こちら。✔
「というか私には師範がいますんで…」
「その煉獄は何処にいんだよ。満足な監視ができてねェから俺が代わりにしてんだろうがァ」
「柱には柱の仕事があるでしょ。夜中中訓練につき合わせてるのに、昼間まで面倒かけられないよ」
だから杏寿郎には仕事に集中して貰う為に、私は一人で蝶屋敷に向かっている。
杏寿郎だって最初は付き添うって言ってきたの。
でもそこに甘える訳にはいかないでしょ。
眉間に力を入れて静かに反論すれば、じぃっと血走った目をこっちに向けてくる。
…何。
「お前、随分と煉獄に懐いたみたいだなァ」
懐くって…言い方。
そりゃあ何処かの風柱よりは好きですよ。
「……」
好き…というか、師として尊敬しているというか…人間性に憧れているというか…な、なんというか…。
「何急に黙り込んでやがる」
「…別に」
此処に強い存在感を持つ杏寿郎はいない。
なのにその姿を思い浮かべるだけで、変に鼓動が速まった。
昨日あんなことがあったからなのかな…よく、わからないけど。
「不死川」
「あ?」
「不死川は…」
「なんだァ」
「……」
「なんだよ」
「…いややっぱいいや。そういう経験無さそう」
「ァあ!? 訊いてもいねェのに自己完結すんな!」
いやだって。
そういう経験とか…その、無縁そうだし。
女好きな印象なんて何処にもないし、そもそも異性に興味を持つことがあるのかも謎。
…今度玄弥くんにでも訊いてみようかな。
「中途半端に切んなコラ。苛つくだろ」
「いっつも苛ついてるの間違いなんじゃ…」
「ア?」
「だからそれやめ!」
すぐ胸倉掴むのもう癖なの!?
全然蝶屋敷に辿り着けないんだけどこれじゃ!
「じゃあ訊くけど! 不死川は経験あるのっ?」
「なん」
「誰かを好きになったこと!」
あ。
思わず勢いで口走っちゃったけど結構恥ずかしいこれ。
不死川もまさかそんな質問がくるとは思っていなかったんだろう。
いつも見開いてる目を更に丸くしてぽかんと…なんか、年相応というか…ちょっと幼く見える。
凄んでなかったら割と怖くないかも…顔中の怪我は見慣れたし。
目尻の睫毛とか、意外に長いんだなぁ…ちょっと童顔っぽいのかも。