第11章 鬼さん、こちら。✔
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真昼。
くるくると番傘の柄を手の中で回す。
曇天が覆い尽くす空は生憎の天気模様。
だけど私の足は、晴天の下を散歩するように軽い。
お天道様が顔を出す温かい日よりも、この曇天の空の方が私には良好な天気だからだ。
「いつも曇り空ならいいのに…」
そしたら昼間でも、こうして傘を片手に歩ける。
と言ってもちゃんとその日は大丈夫か確認を取ってからだけど。
…今度、時透くんに天候の読み方教えてもらおうかな。
いやでもあれは霞柱の彼だからできる読みなのかな…あまねさんもそれなりに読めるみたいだけど。
「ううん」
でもあまねさんはお館様の奥さんだから、時透くんも丁寧に教えてくれたんだろう。
私が訊いたら無言で斬られそうな気がする。
それなりに柱の面々とは向き合ってきたけど、時透くんは一番謎だ。
というか私に可もなく不可もなく。興味自体がない感じ。
胡蝶やおっかな柱みたいに敵意剥き出しにされるよりは幾分マシかもし
「おい」
「っわぁ!?」
考え事をしていた思考をぶち止める者が、急に目の前に現れた。
噂をすればなんとやら。
いきなり目の前にすたんっと斜め上から下りてきた影に心底大声を上げる。
というかその出現の仕方まるっきり忍者だから!
いつから天元の仲間になったのかなっ!?
「テメェ何ほっつき歩いてんだ。餌探しかァ」
「違います。何処の世に鬼殺隊本部のど真ん中で餌探しする鬼がいるの」
開口一番、疑いの目でしか見てこない傷だらけの男。
不死川実弥。
一番会いたくない柱に会ったというか会ってないというか会ってしまった。
どうせなら時透くんがよかった。
「それ以外に一匹で出歩く意味があんのかァ?」
「あるでしょ色々と…出歩く度に脅しに掛かるのやめて下さい」
一応、一人の外出許可も貰ってるし。
ちゃんと何処に行くかは杏寿郎に伝えてあるし。
というか毎回一人で出歩く度に、見計らったように登場するのやめてくれないかな。
何処から覗いてるの偵察でも付けてるの?
天元の忍鼠みたいなものとか。
「昼間っから出歩くなんざ、人の多い場所を狙った餌探しとしか思わねェだろうが」
「どんだけ血に飢えてるの私…」
貴方みたいな血走った目してませんが。