第11章 鬼さん、こちら。✔
目の前の体を抱いて、小さな唇に喰らい付き、快楽に浸り味わった。
触れた蛍の体はどこも柔らかく、血を飲み干した唇はほんのり鉄に似た味がしたというのに甘いと感じた。
更にその体を知りたくなった。
更に深く味わいたくなった。
そこに歯止めをかけたのは蛍牙だ。
貪欲に染まる蛍の意識は混濁していたのか、俺との口吸いの行為には気付いていない。
ならば無理に教える必要もない。
何より今吐露したら、もう俺の血は求めてこないかもしれない。
蛍の為と言いつつ、奥底にあるのは自分の身勝手な欲。
そんな自分で自分にほとほと呆れ果てた。
それと同時に、やはり腹に抱えたこの想いは揺るがないものだと悟る。
蛍に特別な感情を抱きはしたが、それ以前に俺は蛍の師だ。
鬼である彼女が己の意志で鬼殺隊の中でも歩んでいけるよう、導かねばと決意したはずだ。
故に俺の心一つで翻弄させていいものかと、つい漏らしてしまったお館様の屋敷の中庭での一件以来、明白なことは伝えていないが…
「これは無視できるものではないな…」
先程の自分自身の行為が全てを物語っていた。
俺にとって彼女は、鬼でも継子でもあると同時に、一人の女性だ。
初めて蛍への想いを自覚した時と等しく、言いようのない感情が埋め尽くす。
…一先ずは。
「釘を刺しておかねば」
あんな艶美な誘いを、冨岡や不死川の前ではしないようにと。