第11章 鬼さん、こちら。✔
「ふ、ぅ」
「俺の声を拾え、蛍」
「う…ぁ…」
「君ならできる」
どんなに口を開けて欲しいと主張しても、目の前の色は微動だにしなかった。
欲しい、のに。
こんなにも喉が乾いているのに。
なんで。
「ぐ、ぅう」
「自分を見失うな」
だって、お腹が空いてるの。
ずっと何も食べてない。
なんで。
なんで、
「ぅゥウ…!」
私だけ我慢しなくちゃならないの
「蛍!」
頬を包む温かい肉。
そこに喰らい付こうとすれば、背中に衝撃が走った。
紐を引き千切ろうとした手は頭上で固定されて動けない。
ぼやけた視界に覆い被さる、猩々緋色。
「辛いだろう。苦しいだろう。だが打ち勝て。己自身の為に、己を屈しろ」
「ぐる…!」
「己に負けるな! 君は誰だ!? 彩千代蛍!!」
だれ…誰?
私、は…いろちよ、
「鬼になろうとも君の魂は変わっていない! 君は君だ! その魂を誇示しろ! 燃やせ!」
「──っ」
猩々緋色。
血のようだと思っていたそれは、血ではなかった。
稲穂のような金色の柔らかな髪に、鮮やかな朱色が混じる。
強い意志を携えた眉の下には、輪と透き通るような赤み混じる瞳。
あれ、は
「…じゅ、ろ…?」
「!」
見える。
「俺がわかるか?」
聴こえる。
「…きょう、じゅろ」
この人は、私の──…
「わた、し…?」