第11章 鬼さん、こちら。✔
杏寿郎の言う通り、ほとばしるような深く赤い血が透明な容器にたちまち満たされていく。
容器が全て真っ赤に染まった頃、ようやく針が引き抜かれ…あ!
「待って杏じゅ…ッ」
止める前に抜かれた針に、ぷつりと小さな赤い真珠が杏寿郎の腕に浮き上がる。
やっぱり。
血、止める何か布…っ
「止血しないとッ」
「これくらい掠り傷にも入らない!」
そう笑って杏寿郎が筋肉に力を入れれば血管は圧迫され…って待ってそれ!
「噴き出るからそれぇええ!」
「む」
血は止まったけど、直接血管に穴が空いてるから。
傷口付近の血が噴水のように噴き出…直視が辛い!
「勢いとノリ駄目絶対!」
咄嗟に両手で杏寿郎の傷口を覆う。
ぴたりと隙間を失くして物理的に塞いで、何か清潔な布はないかと辺りを探した。
うん、ないな!
「そこまで心配しなくても、鬼殺をしていればこのくらいの傷は日常茶飯事だ! それに怪我という程のものでもない!」
「それは仕事上の不可抗力な怪我でしょ! どんなに小さくたって私が傷付けたんだから私がどうにか…っ」
「それより」
驚きと焦りで見えていなかった〝それ〟に気付く。
急に濃くなったから。
鼻を刺激してくる、強烈な血の匂いに。
「君の体の方こそ心配だ。先にこれを飲みなさい」
目の前に差し出されたのは、真っ赤な血で満たされた注射容器。
両手首を縛っている私を気遣ってか、杏寿郎がゴム筒の蓋を開けてくれていた。
今にも零れ落ちそうな程容器いっぱいに満たされた血液に、息を呑む。
あんなに杏寿郎の心配をしていたのに、もう目の前のそれしか見えない。
気付けば手が伸びていた。
口の中に唾液が溜まる。
ずっと傍にあった飢えが急速に膨らんだ。
「口を開けて」
「…ぁ」
言われるがままに口を開けば、飲み易いように杏寿郎が容器を傾けてくれる。
口内を一気に満たし、喉に流れていく真っ赤な血液。
まるで強い酒でもあおったかのように、カッと体の内側から熱くなった。