第11章 鬼さん、こちら。✔
「全く…君は本当になんというか…」
「…何。なんというか何。そこまで言ったら途中でやめないで」
どうせ呆れてるんでしょうけど。
「いつも着目点が面白いものだなと」
うわやっぱり呆れてる。
やりだしっぺは杏寿郎なのに。
思わずジト目で見れば、くつくつと本当に面白そうに喉を鳴らして杏寿郎は笑った。
「そんな顔をするな。宇髄の気持ちがわかっただけだ。愛いな、君は」
「…は?」
愛い?…うい?
一瞬言われた意味がわからなくて笑っている杏寿郎をぽかんと見てしまう。
未だに面白そうに笑っているけど、その目はなんだか穏やかで。
その言葉通り、なんだか愛おしそうに見てくるから──
「っ」
天元と同じでも、天元とは違う。
その言葉に顔に火が付きそうになった。
「ぅ…何、言って」
「感じたままを言っただけだ」
「っ…」
杏寿郎の顔が直視できない。
熱い顔を俯き隠せば、膝に落ちた私の手に大きな手が重なる。
──あ
「…蛍」
耳に届く声は静かなものだった。
なのに自分の鼓動が聞こえてきそうな程、どくどくと体が熱くなる。
「き…杏じゅ」
「やれぬなら俺がしよう!」
は?
「むん!」
「っあー!!」
意を決して顔を上げた瞬間、私の手から注射器を取り上げた杏寿郎が勢い良く腕に突き刺した。
それはもうぶっすんと。
そんな音がしそうなくらい躊躇なくぶっすんと。
血管の大きく浮き出た盛り上がりに向かってぶっす…直視が辛い! 深く射し過ぎでは!?
「おお…凄い勢いで血が溜まっていくな」
「ひぇ…っ血が! 杏寿郎血がッ出過ぎでは!?」
「ここに溜まらないと止まらぬだろう? もう少しの辛抱だ。耐えろ」
「で、でも…っ」
あれなんか台詞が可笑しい。
耐えてるのは杏寿郎のはずなのに何故か私が励まされてる。
色々と可笑しい。
前に義勇さんから血を貰った時は、胡蝶がその場にいて採血の仕方を実践して見せてくれた。
一人で実践なんて初めてだから右往左往してしまったんだと思う。
けど、いくらなんでも杏寿郎に任せ過ぎだ自分。