第11章 鬼さん、こちら。✔
「動かないでね」
「ああ」
「……」
「……」
「……」
「…蛍」
「何」
「その…大丈夫か?」
杏寿郎が問い掛けたくなる気持ちはわかる。
皮膚の上から血管を探す注射針は、狙いを定められずふらふらとさ迷っていたからだ。
…いや、ぷるぷると震えている方が正しい。
確か血管を皮膚に浮かす為に、上腕を縛るとか胡蝶言ってたよね…私に注射針打ち込む時はそんな経緯なくぶっ刺しにきてた胡蝶だったから、忘れてたけど。
紐は…って手足縛る為に使ったんだった!
ええと…っ
「蛍、」
「待って急かさないで杏寿郎っ今血管探してるところだから…っ」
「成程、血管か。ならば」
「わあっ!?」
ぐっと握り拳を作ったかと思えば、むんと一呼吸。
途端にむきりと杏寿郎の腕に太い血管が浮か…うわああ待って待って。
「ここに射せばいいのだろう?」
「ちょ、待っ、そんな血管盛り上げないで千切れる…! そんなところに射したら血が噴き出る…!」
「噴き出はしない! 万一噴き出ても筋肉を縮小させて一時的に血管を圧せば出血も止」
「あああ言わなくていい! わかってるから事細かな説明要らない!」
想像するから!
そんなこと言われたら想像してしまうから!
常人じゃない筋肉の動きでぎゅっとなってぷっと詰まって行き場を失くした血が…うわあ想像したら私の腕がなんか痛くなりそう。
頸がきゅっと勝手に縮まる。
「…君は本当に鬼か?」
「鬼関係ないから! いきなり目の前で千切れそうなぱんぱんの血管向けられたら驚くから! 誰でも!」
「そうか? 俺は」
「杏寿郎は別です! 本人は別に決まってるでしょ常識!」
何言ってるのかな!?
言い出しっぺは平気だから言い出しっぺになれるんでしょーがッ
大声を上げる杏寿郎につられて声を張り上げ返せば、まじまじと興味深そうに見られる。
どうせ鬼なのにって思ってるんでしょ。
鬼差別。差別だからねそれ。
鬼も人も平等でいこうそこは。
血が噴き出る様なんて想像したら誰だって怖い。