第4章 柱《壱》
「…斬首?」
予想もしなかった冨岡義勇の言葉に、最初に反応を示したのは杏寿郎じゃなかった。
頸を傾げた蜜璃ちゃんが、戸惑いながらも間に入ってくる。
「そんなこと煉獄さんはしないわっ不死川さんが蛍ちゃんに稀血をけし掛けて斬ろうとした時もね、守ってくれたの!」
微かにだけど、蜜璃ちゃんの言葉に冨岡義勇が反応を示す。
「…ふむ。確かに俺は、彩千代少女の斬首をお館様に申し出た。それを知っていたのだな?」
「そうなの!?」
だけど杏寿郎が潔くそのことを認めたから、蜜璃ちゃんは驚愕してしまった。
そうだよね…私も驚いた。
でもよくよく考えれば、それはきっと自然なことだ。
柱として鬼を狩る剣士の立場なら。
きっと…この目の前に背を向けて立つ彼の方が、稀なんだ。
「だから冨岡さん、煉獄さんと蛍ちゃんのお話をしたら走って行っちゃったのね…」
納得するように呟く蜜璃ちゃんに、私もようやく理解した。
どうやら彼が此処に居合わせたのは、偶然ではなかったらしい。
「しかしそれだと疑問が残るな! 何故お館様は、冨岡と彩千代少女の命の保証をしたのに、俺の彩千代少女への斬首の申し出を受けてくれたのか」
…そう、だ。確かに。
それだと矛盾が生じる。
そのお館様がどんな人間かよく知らないけれど、これだけの実力者達の支持を得ている者なら、そんな嘘はつきそうにもないのに。
「…どうであっても、交わした契は契だ。手を出すな」
「うむ! しかし冨岡よ、俺は彩千代少女を斬首するつもりはないぞ! だからそちらも身を退け!」
「そうなの? 煉獄さん、蛍ちゃんを斬ったりしない?」
「しない! そう彩千代少女とも約束した!」
胸を張って言い切る杏寿郎に、今度は蜜璃ちゃんと冨岡義勇の目がこちらに向く。
狭い檻の中で一斉に注目されると、戸惑ってしまう。
だけど杏寿郎の言葉は本当のことだ。
…それで、この場が収まるのなら。
「…した。杏寿郎は覚悟を見せて、そう云って、くれたから」
蹲っていた身をどうにか立たせて、頷く。
いきなり窒息させられ掛けたのは驚いたけど、それも結果を言えば私の為。
杏寿郎の私への姿勢は、覚悟した通りに変わっていない。