第11章 鬼さん、こちら。✔
「その魚も持つよ」
「しかし…」
「師範におんぶにだっこは嫌なんです」
「…わかった」
よし。
魚の入った桶の紐も肩にかけて片手に提灯、片腕で大きな麻袋を抱える。
わ、前が見え難い…中々な大きさだな。
「大丈夫か?」
「大丈夫」
でもこれくらいの重さなら平気。
悲鳴嶼山(と勝手に命名した)での丸太担ぎに比べたら…
「……」
平気、なはず。なのに。
何故か足腰に力が入らない。
ふらつく姿なんて見せたら杏寿郎に荷物を取られてしまうから、どうにか踏ん張る。
…これは。
「その魚も脂が乗っていて美味そうだ」
視界の端にちらつく、桶からちょこっと顔を出している魚。
大きな目をした…後藤さん、なんて言ってたっけ…鮴(めばる)だっけ。
杏寿郎の言う通り、丸々太って脂の乗った青銀に光る体。
じわ、と口の中の唾液が満ちる。
腹は鳴らない。
でも。
「…うん」
お腹が、減った。