第11章 鬼さん、こちら。✔
「宇髄は蛍のことを好いていると思うぞ」
「杏寿郎、変なもの食べた…?」
「よもや」
月明かりが照らす帰り道。
小さな提灯を片手に進めば、杏寿郎が突拍子もないことを真顔で告げてきた。
思わず同じく真顔で返せば、真顔のよもやを貰う。
いやこっちがよもやだって。
「さっきの見たでしょ。あれはどう見ても面白半分にからかってただけだから。天元が愛妻家なのは事実だし」
「宇髄とは幾分、深い話もするつき合いだ。だからわかるのだが異性には基本的に優しい男だ」
「…杏寿郎、頭でも打った?」
それなら私への毎度の仕打ちは何。
思わずまた真顔になれば、くつくつと含み笑いを返される。
「だろう? 蛍への対応のように異性を雑に扱う姿は、俺は見たことがない。故に宇髄は蛍をその言葉通り別枠で見ているのだと思う」
「鬼っていう枠なんじゃ…」
「鬼という枠なら即頸を斬っているぞ」
…確かに。
「あれでいて蛍のことが愛いのだろうな。気に入れば面倒見の良い男だ」
「ええ…それならもうちょっと面倒臭くない絡みをして欲しい…」
「そうか? 俺は二人共楽しそうに見えるが」
「それこそよもやだよ」
楽しんでるのは天元だけであって、私的にはあのからかい癖をどうにかしてほしい。
そりゃあ…お泊まり会や柱会で楽しかったのは事実だけど。
娯楽の発端になって、誘ってくれたのも事実だけど。
なんせ祭りの神様だから。
そのくらいは、認めてあげても…いいけど。
「それより荷物っずっと持たせてごめん」
認めてしまうと変に気恥ずかしくなって、咄嗟に杏寿郎が持っている荷物に手を伸ばす。
「いや、大丈夫だ」
なのにあっさりと断られてしまった。
いやいや一人が持つには量が多いから。
さつまいもだけでも大きな袋なのに、今日は米も味噌も肉も魚も野菜も…常人だったら絶対一人で運べない量だって。
杏寿郎が常人じゃないのは理解してるけど。
なんだか申し訳ない。
「私は継子だから率先して持つのは当たり前。ってことで私にも筋力の鍛錬させて下さい」
「む」
鍛錬という言葉に杏寿郎は弱い。
そこを強調して言えば、ようやくさつまいもの入った麻袋を渡された。