第11章 鬼さん、こちら。✔
「確かに俺は愛妻家だ。女に嫁以上も以下もねぇ」
そこはうん、認める。
だから素敵だなって思ったんだ。
宇髄家の家族の絆。
「けどな、」
うんうんと頷いていれば、ふと顔にかかる影。
見上げれば、大きな体を折り曲げて顔を寄せる天元に、伸びた手が私の顎を持ち上げる。
「お前は別」
間近にある顔は、いつもの独特の化粧を施した顔。
忍者が顔化粧するのって、表情を悟られ難くする為だとか…だけど天元の今の瞳は、表情以上に感情を語っていた。
纏う天元の黄支子色(きくちなしいろ)が、ゆらりと揺らぐ。
切れ目の瞳が欲を含んだように、同じにゆらりと──
「さっさと気付けよ。鈍感娘」
耳元で吹き込まれる色欲ある声に、ぞわりと肌が粟立つ。
そんな天元の声、聴いたことがなくて。
何故かさっき夜の営みと宣った時の顔が重なって。
「っ」
顔が熱くなった。
「お」
動揺してしまった私はどんな顔をしていたのか。
顔を離した天元が、ぱちりと目を瞬く。
「よっし! そうそうド派手にその顔が見たかったんだよ!」
「…は?」
と、それはそれは満足そうに笑った。
…ちょっと。
「煉獄ばっかじゃなく俺のことも見とけってんだ」
「既婚者が何言っ…わっちょっ」
反論する余裕もなく、ぐしゃぐしゃと大きな手で頭を掻き乱される。
さっきまでの色気は皆無。
表情を崩して心底楽しそうに笑ったかと思えば。
「じゃあな。俺に会いに来るなら嫁にも会わせてやる。考えとけよ」
「あっ待…!」
ふっとその場に匂いだけを残して、跡形もなく消えた。
忍者の如く。
唖然と残された鬼と柱と隠が二人。
嫌な沈黙が生まれる中、半端に伸ばした手で握り拳を作る。
「あ…っんの天下衆忍者め…!」
からかいたいだけからかってったな本当!
後藤さん達が傍にいるのも忘れて、つい本音が出てしまう。
「ううむ…してやられたな」
呻るように呟いた杏寿郎の言葉に、後藤さん達のぎこちない表情が尚の事痛かった。
あの筋肉忍者、次に会ったら絶対一発殴ってやる。