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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第11章 鬼さん、こちら。✔





 するりと上手いこと躱して、その場から抜け出すように去っていく。
 そんな蛍の背中を見送りながら、なんとなく腑に落ちない自分がいた。

 あいつァ…


「宇髄」

「あ?」

「何を話していたかわからないが、今のは会話をする距離ではなかったと思う」


 呼ばれて見れば、さっきまで浮かべていた笑顔は何処へやら。
 基本、曖昧なことは言わねぇ奴だからな。
 だからこそこいつが言うと一端の正論みたく聞こえるが、今のは聞き捨てならねぇな煉獄さんよ。


「距離感可笑しい奴に言われたくねぇから」


 ついでに声量もな。
 その眼力で凄むようにデケェ声で話しかけるから、初対面の隊士は大半ビビるんだよ。お前の場合。


「お前だって蛍の顔面間近で凝視してよく話してんだろ。一緒だ一緒」

「む…」


 しっかし柱としてのつき合いはそれなりに長い奴だってのに、一人の鬼にここまで心を持っていかれたのは初めてじゃねぇのか。
 違った、一人の女に。

 だからこそ面白くてついちょっかい掛けちまうが、やっぱさっきの蛍の反応は…


「そこまで凝視しているつもりは…」

「ありゃ生娘(きむすめ)じゃねぇな」

「生、娘?」


 なんだその盛大な呆け顔。


「確かに蛍は子供のような娘ではないと思うが…」

「そういう意味じゃねぇよ」


 チビにはなれるがあいつがガキなんて思ってねぇよ俺も。
 正式にお館様から煉獄の継子に任命されてから、公の場では煉獄だけじゃなく柱である俺にも言葉遣いを見せるような奴だし。
 あいつの性格だってそれなりに見てきた。
 案外しっかりしている奴だ。
 ただそこに青臭さもねぇなってことだよ。


「処女だ処女」

「成程、処…じょ!?」

「バッカ声デケェっつのッ」


 意味を理解した途端ビクつくくらい動揺する煉獄は面白かったが、一先ず楽しむのは後だ。


「あいつは多分、非処女だな」

「な、何を訳のわからないことを…」


 流石に蛍に聞こえるとまずいと思ったんだろ。
 隠達と話している姿を互いに確認して、俺は納得。煉獄はひたすらに動揺していた。

 だってよ、お前には初心な反応を見せるからもっと引き出してやろうかと思ったのに、あいつ俺の夜の事情には冷めた反応したんだぜ。

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