第11章 鬼さん、こちら。✔
「お前が来ると夜通し嫁を取られんだろ。俺にも夫の務めってもんがあるんだよ」
「なんですかそれ…そんなもの昼間だってできるんじゃ」
「夜の営みってやつだ。察しろよ」
わぁ…それを堂々と部外者の女に言うか。
男同士で下(しも)の話になるならまだしも。
素面で私に言うか。
思わず顔が真顔になる。
「お?」
思ってた反応と違ったのか、不思議そうにひらひらと大きな手が目の前で振られ…いや固まってないから。
その手邪魔。
「別に邪魔する気はないけど、そういうことあんまり外で言わない方がいいと思う」
ぼそりと私にだけ告げた天元と同じに、二人にだけ聞こえる声量で伝える。
いつもの言葉で。というか素っ気なく。
このことを知ってしまったら、顔を赤くして俯く雛鶴さんが目に浮かぶ。
まきをさんも顔真っ赤にしそうだな…須磨さんが一番平気そう。
でも三人とも素敵な奥さんだから、夜の営みなんて言われると一瞬想像してしまった自分がいて。凄く罪悪感。
「お前──」
何か続けようとした天元の顔が、急に離れる。
間近にあった顔が離れれば、開けた視界に映る黄金色の髪。
「なんの話だ?」
天元の肩を掴んで無理矢理退かせたんだろう。其処には笑顔の杏寿郎がいた。
あ、目笑ってない。
杏寿郎も上背があるけど、遥かに大きな天元だから体格差がある。
それでも今は杏寿郎の方に圧を感じた。
「大した話はしてないです、ただの世間話だけで。それより荷造り終わったんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます。じゃあ後藤さん達にお礼言ってきますね」
それこそ杏寿郎にまで夜の営みを暴露されたら、奥さん達が可哀想だ。
あれでしょ?
旦那の仕事の同僚に知られるようなものでしょ?
というか正にそれでしょ。
うん、やめておいた方がいい。
早々会話を続けさせないよう切り上げて、ついでに天元にも言わないように目で訴えて。
それから後藤さん達の下へ足早に向かった。