第11章 鬼さん、こちら。✔
「先程は聞き捨てならないことを聞いた! 蛍の袴を作る際に、よからぬ欲を混じえなきよう!!」
「は…ハイ…」
ずいっと顔を寄せて圧をかける杏寿郎は笑顔。
だけど目が笑ってない気がする。
その証拠に、あの前田さんが尻込みしてる。
何かとその拘りに命を懸けていた前田さんが。
「おーおー、何やら騒がしいと思えば」
「む?」
「あ。」
そこへ聞き覚えのある声が飛んできた。
向けた目線は、隊舎の中。
廊下の奥から姿を現したのは、隠ではない人物。
「やっぱ煉獄か。相変わらず声デケェな」
「宇髄か! こんばんは!!」
「だからデケェって。夜の声量じゃねぇよ。チワ」
杏寿郎と同じく隊服姿の、音柱の宇髄天元。
…なんで柱が此処に?
「よう、蛍。新しい生活には慣れたか?」
「…はい、それなりに…というかなんで此処にいるんですか」
「ネズ公の額当てが壊れちまってよ。その修理を縫製係に頼んでたところだ」
「えっあの?」
「相変わらず目ぇキラッキラしてんな」
だって可愛いんだもん、あの忍鼠。
そわそわと期待で見れば、天元の背中からぴょこりと姿を現した小さな鼠が、肩に乗って片手を上げる。
わぁ可愛い。
いつもの額当てをしてないから、ムキムキだけど普通の鼠っぽい。
それも可愛い。
「こ、こんばんはっ」
「チュッ」
「その前に俺に挨拶しろよ…」
天元には杏寿郎が挨拶したし、いいでしょ。
「よもや鼠達の額当ても頼んでいたとは」
「こいつらにも仕事を任せる時があるからな。しっかりした造りじゃねぇと、すぐ壊れちまうの」
成程。
三人も奥さん娶ってるし、私に対しても何かと構ってきていたし…面倒見いい感じはしてたけど。
忍鼠達にも惜しみなく愛を注いでいるんだな。
「この派手な額当てが似合う鼠じゃねぇと、俺様の忍獣とは認められねぇからな」
…多分。
「それよりお前らこそ、なんで此処に?」
「あっそうだった。食材!」
「食材?」
「後藤さん」
「ああ。上がってくれ」
ようやく話が進むという様子で、後藤さんが玄関先を促す。
頭を下げて隊舎にお邪魔して、本当に邪魔にならないうちに手早く目的を済ますことにした。