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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第11章 鬼さん、こちら。✔



 それに隊服の背中には〝滅〟の文字が大きく刻まれている。
 鬼を滅する組織だから、志として刻むのは当然のことかもしれないけれど…私は鬼を滅していいものか、計り兼ねているところがある。
 妓夫太郎や堕姫の絆を見てしまったから。

 そんな私が隊服を着る資格はない。


「だからいいんです。袴の方が着慣れているし」


 姉さんに買ってもらった、あばら家から持ち出せた唯一のもの。
 その袴はあの火事で焼けてしまった。
 それを思うと気持ちは沈むけど仕方のないことだ。


「そうか。では袴を作って貰うのはどうだ」

「え?」

「以前、対日光用に袴を作って貰ったと聞いたが、火事で全て持ち物は焼けただろう?」

「それは、そうだけど…でもまた作ってもらうなんて」


 申し訳ないというか。
 小さく頸を横に振る私に、杏寿郎が笑いかけてくる。


「鬼殺隊に迎え入れられた蛍への、師からの祝いものだ。それなら受け取れるだろう」

「祝い、もの?」

「火事のこともあり、何かと忙しなく祝い事らしいことはしてやれていない。どうだ、頼めるだろうか?」

「えっ私ですか? 作っていいんですか!?」

「ああ。良い布を使ってくれ」

「勿論ですとも!」


 そのまま前田さんに頼むものだから、とんとん拍子に話が進んでいく。
 い、いいのかな。


「でもそんな悪」

『蛍ちゃん』


 尚も頸を横に振ろうとすれば袖を軽く引かれる。
 小声で顔を寄せてきたのは後藤さんだった。


『それを断るのは流石に野暮ってもんだぜ。受け取りな』


 …そんなこと言われると何も返せない。

 嬉々として話す前田さんと頷く杏寿郎を見て、好きにさせることにした。
 嬉しいのは、嬉しい、し。


「あの…師範」

「ん?」

「その…ありがとう、ございます」


 おずおずとお礼を伝えれば、見開いたような大きな瞳が優しく和らぐ。


「礼など要らないぞ。俺がしたくてしているだけだ」

「わ、私も。言いたかったから言ったんです」

「む。そうか」


 負けじと伝えれば納得したように頷いてくれた。
 だけど相変わらず優しい目元に、なんだか目が合わせられ


「しかし!!」

「うわっ」


 吃驚した!
 いきなり目かっ開いて振り返るものだから、後藤さんと前田さんもビクついてる!

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