第11章 鬼さん、こちら。✔
「今日頂ける食材は…」
「ああ、頼まれたものは用意できたよ。でも全部持っていけるのか? 結構な量だけど」
「大丈夫。力はあるし」
袖を捲って力こぶを見せれば、後藤さんも笑ってくれた。
ひょろい腕だけど、鬼だから山のようなお米の俵だって運べる自信はある。
うん問題ない。
「じゃあとりあえず上がって──」
「蛍ちゃん!? 蛍ちゃんでは!?」
「わっ」
うわ吃驚した。
いきなり突風のように舞い込んできた黒い塊が、私の前で飛び跳ねる。
こんなにあからさまに歓迎を体現してくれる隠は一人しかいない。
縫製係の、前田まさおさん。
「どうして此処へ…はっ! まさか私に隊服を作らせてくれると!?」
「えっと」
「鬼殺隊の一員となった蛍ちゃんなら隊服を身に着けても問題ないはず…! いや身に着けなければ!」
「いや私は」
「ならば是非に私にその役目を! 白く美しいその体の魅力を最大限引き出」
「喧しいわァアア!!!」
「ゲフゥウ!!」
あ。
この光景見たことがある。
思いっきり前田さんの横っ面に入る、後藤さんの怒りの鉄拳。
「だからお前は場を弁えろつってんだろ!!(炎柱が見えねーのかボンクラメガネ!!)」
今回も思いっきり私情塗れてる気がするなぁ、あの拳…お疲れ様です。
「隊服か…確かに作らせても良いのやもしれないな」
「えっ?」
「師範?」
「炎柱様!!」
まさかのまさか。
騒ぎに動揺することなく、顎に手をかけて思いもかけないことを杏寿郎が言い出したものだから、後藤さんは驚きを、私は困惑を、前田さんは盛大に歓喜した。
いや待って。
「蛍は正式に俺の継子となったんだ。隊服を身に着けても可笑しくはないだろう?」
「いいですよ、私は」
杏寿郎の心遣いは嬉しいけど、その隊服を着ようとは思わない。
「私は育手の下で鬼殺隊のなんたるかを学んだ訳でもないし、最終選別に受かった訳でもないし、鬼を滅した訳でもない。その隊服は、然るべきことをやり遂げた証だろうから」
杏寿郎の隊服も、隠さん達の隊服も。
血の滲むような努力を経て辿り着いた結果のもの。
「その証がある人が、着るべきものです」
私が安易に着ていいものじゃないと思う。