第4章 柱《壱》
「蛍ちゃん大丈夫っ?」
「う、ん…」
「むぅ…言っておくが、何も変なことはしていないぞ。彩千代少女に呼吸の方法を教えていただけだ」
「え? 呼吸を?」
「そうだ!」
威勢よく頷く杏寿郎に、蜜璃ちゃんの顔が驚きに変わ…って、この体制どうにかならないのかな。
上に跨がれているのは、ちょっと、その、あんまりよろしくない。
人間だった時に、生きる為とは言え色々やってきた仕事のことを思い出すから。
「呼吸を扱えれば、今より自制ができるようになる。現に今も、俺の血に当てられていた衝動を抑えられただろう?」
衝動を抑えられたというより、いきなりの窒息にそれどころじゃなかっただけのような…。
意識が飛びそうな程に気道を塞がれれば、誰だって血どころじゃなくなるから。
それでも杏寿郎の目は、興味深く私を見下ろしていた。
「初な上に無知であったが、中々に筋がいい。鍛えれば呼吸が扱えるようになるかもしれないな」
「…けほ、」
どう応えていいのか、詰まった咳を零すことしかできなかった。
…それより早く退いてくれないかな…変な汗を、掻きそうになる。
「鬼が呼吸を扱ってどうする」
「むっ!?」
すると唐突に、その願いは叶った。
捻り上げていた杏寿郎の手首を引いて、私の上から退かせたのは、冷たい物言いの冨岡義勇。
「鍛えて、それからどうする。己の剣術の練習駒にでもする気か」
「成程! それもいいかもしれないな。しかし駒という言い方は」
「それなら他所を当たれ。狩るべき鬼は他にごまんといる」
杏寿郎の張った声を、静かな声で遮る。
だけどそれだけ彼の声は、静かな中でも凛と通る。
今まで交わした言葉は少ないけれど、素っ気無い言い方も多いけれど。
なんて言えばいいのか、よくわからないけれど。
なんで、この人はそんなことを言うのだろう。
いつも不思議とそう思う。
「都合の良い道具にする為に、こいつを連れて来た訳じゃない」
…なんで、そんなことを言ってくれるのだろう。