第4章 柱《壱》
だけど急に体が迅速な反応を示すはずもなく、濡れた視界が霞み始める。
動かなくなった体から沸騰するような熱を感じて、唐突に限界を悟った。
嗚呼もう駄目だ。
これ以上、意識を繋いでいられない。
「っ──」
ふわりと、意識が落ちる間際に一瞬浮上する。
正にその刹那だった。
「ッは…!!」
急に気道が解放されたのは。
「げほッ! ごほ…ッ!」
一気に取り入れた酸素に体が追い付かなくて、強く咳き込む。
空気を取り込むのと気道を確保するのに精一杯で、目の前で何が起きているのかわからなかった。
「止めろ。鬼は窒息では死なない」
静かな、だけど意志の強い声がする。
涙で滲んだ視界にぼやりと映る、二つの人影。
「無闇に苦しめるだけだ」
「苦しめようとは思っていないぞ!」
一つは、聞き慣れた杏寿郎の張った声。
もう一つは…この、声は。
「ならこの有様はなんだ」
「うむ。その前にその手を放してくれないか?」
倒れ込んでいる私の上に、跨っている杏寿郎の姿。
そしてその杏寿郎の手首を掴み、背に捻り上げているもう一人の男の姿。
「冨岡」
半柄羽織の、柱の一人。
冨岡義勇、その男だった。
「はぁっ待っ…冨岡さん、走るの速…っきゃあ! 煉獄さん何してるのッ!?」
状況が理解できず二人を見上げていれば、檻の外から蜜璃ちゃんの声がした。
目を向ければ、いつの間にか藤の檻の扉が開いている。
あそこから入ってきたんだ…でも、なんで?
「蛍ちゃんに乱暴したのッ!?」
「それは違うぞ、甘露寺」
「はわ! 蛍ちゃん泣いてるッ!」
「誤解だ、甘露寺。これは」
「煉獄さんったら野蛮! 女の子には優しくしなきゃダメなのにー!」
「……」
ぷんすかと怒る蜜璃ちゃんも檻の中へと入ってくる。
その怒涛の責めに、杏寿郎も押し黙ってしまった。
何か色々違う解釈もされてそうだけど、助けてくれるのはありがたい。
だって本当に、死ぬかと思った…一瞬、本当に。